近い時間

「やー惜しかった!」

「勝てるチャンス何度かあったよね、次リベンジ!」



球技祭のエキシビションマッチ
惜しくも負けてしまった私達は男子の応援をするためにグラウンドへと向かっていた



「それにしても、名前ちゃんって結構運動出来るんだね」

「私も思った!3ポイント決めた時なんかびっくりしちゃったよ」

「ふふ、ありがとう」

「さて、男子野球はどうなってるかな」

「すごい!勝ってるじゃん!」



スコアボードに書かれたE組 3点の文字に思わず歓声を上げる私達とは対照的に、男の子達の反応は薄い
その原因は理事長先生が登場したこと
予想通り、先生が指揮を執ると野球部は極端な前衛守備に転じてE組は成す術もなく2点を取り返されてしまった



『二回の表!相変わらずこの鉄壁のバントシフト!』

「…ねぇ名前、見て」

「あれ、カルマくん?」



実況の声がグラウンド中に響くなか、カルマくんはなかなか打席に入らないでいる
そんな様子に心配していると、私に小さく微笑んでから口を開いた



「ねーえ、これズルくない理事長センセー?」



そこからは彼お得意の挑発が続き、観客席からはブーイングが巻き起こる
隣でカエデちゃんが不思議そうな顔をしているけど、多分これは殺せんせーの策略
抗議が通用するかどうかじゃない、はっきり口に出す事が大事なんだろう



『あっという間にノーアウト満塁だ!しかしE組との最大の違いは!ここで迎えるバッターは…我が校が誇るスーパースター進藤君だ!』

「ちょっと、ヤバいんじゃないの…?」

「大丈夫だよ、カエデちゃん」

「え?」

「見て、カルマくんが動き出した」



ほら、と指差した先にはカルマくんと磯貝くんのゼロ距離守備
振れば確実にバットが当たる位置に人がいて全力でスイング出来るはずもなく、進藤くんが腰を抜かしている間にE組のトリプルプレーでこの試合は幕を閉じた



「キャー、やった!」

「男子すげぇ!」



E組からは歓声が、観客からはブーイングが上がるなか、理事長先生は席を立って本校舎に戻っていく
しかし、私と目が合うとこっちに向かって歩いてきた



「わ、理事長こっち来る…!」

「カエデちゃん、先に皆のところに戻ってて」

「え、でも…」

「大丈夫だから、ね?」

「…うん、待ってるから!」



走り去っていくカエデちゃんを見送ってから、理事長先生と向き合う
先生は優しい笑顔で私の頭を撫でた



「やあ苗字さん、新しいクラスには慣れたかな?」

「はい先生」

「それは良かった!君みたいな優秀な生徒がE組に受け入れられるか心配だったが、どうやら私の杞憂だったようだ」

「ご心配ありがとうございます」

「…いつでも戻っておいで、君にはそれだけの実力がある」

「いいえ先生、私はE組のみんなと卒業します」

「はっはっは、大いに結構!では、これからも頑張りたまえ」



去り際の先生の目つきは、優等生を見る目からエンドのE組を見る目に変わっていた
でも、これで先生も私をE組だと認めて下さった
これからは元担任からのしつこい電話も無くなるんだろう
そう思うと心はすごく晴れやかで、心配して駆け寄ってきてくれたカルマくんに私はにっこりと微笑んでみせた



近い時間
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