放課後の寄り道

「蛍くーん!」

「っ、名前さん」



突然後ろから駆け寄ってきた名前さん
びっくりして手にしていた物をポケットに押し込むと名前さんはにやりと笑った



「何隠したのー?」

「いえ、別に何も」

「嘘だぁ!」

「本当ですよ」

「いいからお姉さんに…見せてみなさい!」

「あ、ちょ、名前さん!」



名前さんは素早い身のこなしで俺を躱してポケットに手を突っ込む
中から出てきた紙が彼女の手に収まったのを見て、僕は観念して抵抗をやめた



「これ…」

「…笑って下さいよ」



紙、とは最近新しく出来たケーキ屋のチラシ
ご丁寧に目当てのショートケーキに赤丸をつけたあの日の僕死ね



「名前さん、もう返して「これ!」



名前さんは僕の言葉を遮ってぱっと顔を上げる
その目はきらきらと輝いていた




「このショートケーキ!私もすっごく食べたかったの!」

「へ?」

「蛍くんもショートケーキ狙いか!同志だね!」



名前さんから返ってきた反応は、僕の予想とはかけ離れていた
笑われるか引かれると思っていたのに、彼女はそんな素振りを微塵も見せない
ただいつものあの柔らかい笑顔で、ふにゃりと笑うだけだった



「ね、蛍くん知ってる?ここのケーキ屋さん、カップル限定のスペシャルショートケーキがあるんだよ!」

「!マジすか」

「うん、今日練習お休みでしょ?私とケーキ屋さんデートしてくれませんか!」

「え、あの…」

「本当は龍ちゃん誘おうと思ってたんだけど、蛍くんと行った方がケーキについて色々語れて楽しそう!あ、でも私じゃ嫌かな…」

「いえ、僕で良ければ」

「本当?ありがとう!じゃあまた放課後にね!」




名前さんはそう言うと手を振りながら走り去っていった
本当に、見ていて飽きない人だと思う
小さく手を振り返して、緩む口元を押さえながら僕も教室へと向かった



放課後の寄り道
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