このまま二人

(結様へ愛を込めて!)



「名前ちゃん、こんばんは」

「あ、いらっしゃいませ!お久し振りです雪人さん!」

「うん、久し振りだね」



にこり、と笑う彼は油屋常連の雪人(ゆきと)さん
冬の神様で、雪みたいな白い肌と銀色の髪の毛を持つ優しい人
周りの湯女たちは、雪人さんを見るときゃあきゃあ騒ぎ出した



「毎回雪人様にご指名をいただく名前様が羨ましゅうございますわ」



昔そう言われた事があるほど、雪人さんは女の子たちに人気がある
…うん、確かに素敵な人だけど、



「ハクの方が、格好良いと思うんだけどなぁ…」

「ん?どうかした?」

「あ、いえ!すみません…」

「はは、具合が悪いのかと思って心配しちゃったよ」



考えていた事が口に出てたみたいで、かぁっと顔が赤くなる
雪人さんはそんな私の頬を撫でてくすくすと笑った



「もう、笑うなんて酷いです」

「ごめんごめん、名前ちゃんがあまりにも可愛いからつい」

「煽ててもお安くしませんよ?」

「やだな、本音だよ。ところで今日は彼はいないのかな?」

「彼?」

「ほら、青い服を着たあの…」

「ああ、ハクですね!ハクは…うーん、多分部屋にいると思いますけど…何か用事ですか?」

「ううん、今日は彼がいると都合が悪いんだ。名前ちゃんにどうしても聞いてほしい事があって」

「私に?何ですか?」

「僕と、結婚してほしい」

「…え?」



ええええ!
一拍おいてから、周りのみんなが一斉に騒ぎ出す
突然の出来事に固まっていると、雪人さんが私を抱き締めた



「ここのオーナーには既に話を通してある。名前ちゃんが承諾すれば連れて帰っていいそうだ」

「えっと、あの…」

「ね、名前ちゃん、僕と一緒に人間の世界で暮らそう」

「でも…「困りますお客様」



ふわりと身体が浮いたかと思うと、ハクの凛とした声が耳元で響く
どうやら私はハクに抱きかかえられているようだった



「名前は私のものなので、油屋を出て行く事はありません」

「僕は君とじゃなくて名前ちゃんと話しているつもりだけど」

「あの、あの!お話は嬉しいんですけど、私にはハクがいるので、その…ごめんなさい!」

「このように名前も申してますので、それでは失礼します」



もう二度と名前の前に姿を現すな
ハクはそう言い残して、私を抱えて座敷を後にする
襖が閉まる直前、雪人さんが泣きそうな笑顔でお幸せに、と呟いていた



***



「ハク?…きゃっ!」



部屋に着くとすぐに、布団の上に放り投げられる
起き上がるより先にハクが私の上に馬乗りになった



「ハク?何、どうしたの?」

「名前は…、名前は私の物だ」



ぐっと顔を近付けられ顔が赤くなるのを感じる
どうしたら良いか分からずにゆらゆらと視線を彷徨わせていると、ぽとりと左頬に何かが落ちてきた



「…ハク、泣いてるの?」

「名前…」



ぽとり、ぽとりと次第に涙が私の顔にかかる
右手を動かしてハクの頭を撫でると、ぎゅうと抱き締められた



「名前が、あの男に奪われてしまうかと思った」

「うん」

「私を置いて、違う世界に行ってしまうのかと思った」

「…うん」

「名前のいない世界など、生きている意味がないんだ」

「私はハクの物だよ。ずっと、ずーっとハクと一緒にいる
誰の所にも行かないから、だから泣かないで」

「…名前、愛してる」



ハクの唇に触れるだけのキスをすると、ハクもやっと柔らかく笑う
こんなに大切に想われて、すごく幸せな気持ちになった



このまま二人
(ずっと隣同士なら幸せ)
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