逃げ出し日和
(月華姫様へ愛を込めて!)
「あ、いたいた!おーい名前ー!」
休憩中、体育館にクラスメイトの女の声が響く
それに反応してタオルを目一杯抱えた名前が小さく首を傾げた
「なあにー?」
「やっと衣装作り終わったからちょっと試着してほしいんだけど!」
「えっ…と、ごめんなさいお兄ちゃん、少しだけクラスに戻っても良い?」
「おう、行ってこい」
「ありがとう!なるべく早く帰ってくるね」
そう言って体育館を出て行く名前を目で追いながら、もう文化祭の時期かと澤村さんが呟いた
「影山、お前のクラス何やるんだ?」
澤村さんはあくまで自然に聞いてきたけど、気になるのは“俺のクラスが”何をやるのかではなく“名前が”何をやるのかだろう
シスコンの澤村さんに言って良いものか悩んだけど、シカトする訳にもいかないので俺は仕方なく口を開いた
「執事喫茶とメイド喫茶っス」
「そうか、執事と…メイド?!」
“メイド”
その単語にざわざわと一気に騒がしくなる体育館
予想通りの反応に小さくため息をつくと澤村さんにがっしり肩を掴まれた
「メイドってお前、誰だそんな事言い出したやつ!」
「いや、俺出し物決める時補習受けてて、気付いたら決まってました」
「名前もメイド服着るのか?!」
「はぁ、多分…」
「良いじゃないっスか大地さん!名前ちゃん絶対似合いますよ!なぁ龍!」
「おう!俺絶対名前ちゃんのクラス行くぜ!」
「馬鹿野郎、似合うに決まってるから問題なんだろ!他校の奴らも来るんだぞ、声掛けられたらどうするんだ!」
「大地、そんなにムキになるなって、な?」
「そうそう、名前ちゃんももう大人なんだから」
「大人ぁ?!まだ16歳だぞ!」
菅原さんと東峰さんの制止も聞かずヒートアップしていく澤村さん
そんな時、タイミング悪く名前がクラスメイトに連れられて帰ってきた
「ほら名前、みんなに見てもらいなよ!」
「やだやだ、恥ずかしいよ…!」
「可愛いから大丈夫だって!」
丈の短いメイド服に、猫耳とニーハイ
顔を真っ赤にして今にも泣きそうな名前の姿に部員全員がその場で固まる
そんな中、俺は咄嗟に名前の手を取って全力で走った
「おい影山!」
後ろから聞こえる澤村さんの怒鳴り声
後で確実に叱られるだろうけどもうそれでも構わない
とにかく走って走って、屋上に辿り着いた時には俺も名前も疲れきっていた
「っはぁ、飛雄くん…?どうしたの?」
「お前、そんな格好で戻ってくんなよ!」
思いのほか大きな声が出てしまい、名前がびくりと肩を揺らす
「ご、ごめんなさい、部活中なのに、私こんな格好で…」
「違ぇよ、ばか」
「え?」
「本番も、その格好すんのやめろよ」
「やっぱり、こんな可愛い服私には似合わないよね…」
「ああもうそうじゃねえって!…すげえ可愛いから、そういうのは俺の前だけにしろ」
何だか恥ずかしくなって腕を引いて抱き寄せると、名前も耳まで真っ赤にして俺を見上げてくる
…ちくしょう、マジで可愛過ぎるだろ
練習中だなんてもうとっくに忘れていて、名前の唇に自分のそれを重ねる
澤村さんが田中さんと西谷さんを引き連れて屋上のドアを蹴破ったのは、そのすぐ後の事だった
逃げ出し日和
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