背景に青空

(瞳様へ愛を込めて!)※現代学パロ



照りつける太陽、沸き上がる声援
盛り上がるグラウンドとは対象的に、校舎内は静かでどこかもの寂しい
人の気配がない廊下を進み突き当たりを左に曲がると、保健室の引き戸を開けた



「あ、ハク君」



にこりと笑うのは、幼馴染みの名前
養護教諭用の椅子に座り、窓からグラウンドを眺めていた



「寝てなくて大丈夫?」

「今日は調子が良いみたい。午前中は無理だったけど、午後はみんなと一緒に応援するよ」

「無理は禁物だよ」

「うん、分かってる」



名前は生まれつき身体が弱く、激しい運動は医者から禁止されていた
去年はずっと保健室にいたけど、今年はどうやら本当に気分が良いようだ



「みんなすごいね!ピストルがぱんって鳴ったら一斉にわーって走って、あんなに速く、すごいねぇ」



身振り手振りを交えて興奮気味に語る名前
その瞳はとても輝いていた



「いいなぁ、私もあんな風に走れたらなぁ」

「…うん」

「あ、ごめんね、そんな顔しないで!見てるだけでも楽しいよ」



名前とは小さい時からずっと一緒だったから、彼女の人生がいかに我慢を強いられてきたものだったか良く知っている
代わってあげられたらと、何度思った事だろう



「午後はハク君も走るんでしょう?私、頑張って応援するからね!」



ぐっと拳を握って名前が言う
頭をくしゃくしゃと撫でると、楽しそうに笑った



***



「名前、こっち!」



運動靴に履き替えてグラウンドに出る
暑い日差し、揺れる大地
みんなと同じ場所に立っているのが、堪らなく嬉しかった



「ほら、もっと近付いて」

「うわ…」



友達が私をコースぎりぎりまで連れて行ってくれた
今まで遠くから見ていた景色が目の前に広がっている
みんなの息遣いが、流れる汗が、こんなに近くで感じる事が出来る



「すごい…」

「あ、ほら名前、ハクが走るよ!」

「本当だ!」



スタートラインにハク君が立つ
ピストルの音と共に、誰よりも速く駆け出した



「ハク君すごい!頑張ってー!」



ハク君は既に他の人を引き離して応援席に近づいてくる
そして目の前に来た時、



「え?」



身体がふわりと浮き、気付いたら元いた場所がどんどん離れていった
突然の出来事に思わずハク君の首に抱きつき、ぎゅっと目を瞑る



「名前、目を開けて」

「でも…っ!」

「大丈夫、私を信じて」



そう言われて、恐る恐る目を開ける
すごい勢いで周りの景色が後ろに消えていき、風が全身を撫でる
今までにない体験だった



「わあ…」

「ね?怖くない」

「うん!」



ゴール直前でハク君が私を降ろすと、目の前には白いゴールテープ



「さ、名前」



ハク君が私の背中を押す
ぱさりと音を立ててゴールテープが地面に落ち、グラウンド中が大歓声に包まれた



「ハク君…!」

「名前にどうしても、この景色を見せてあげたかったんだ」



そう言って優しく笑うハク君に、私はぎゅうっと抱きついた



背景に青空
(ああ、何て眩しい)
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