終わりの前触れ(1/1)

かち、かち、かち、
規則的に時を刻む秒針の音がやけに耳につく
名前は依然として目を覚まさない
焦る気持ちが募る一方、千尋を信じて待つ事しか出来ないのがもどかしい
額に乗せたタオルを交換しようと手を伸ばした時、名前の身体から黒い大きな泡のような物が浮かんできた



「名前!」

「これじゃ、これが呪いの本体じゃ!」



それはぱちんと音を立てて割れると、金色の飛沫となって名前に降り注ぐ
やがてそれが止んだ時、名前はうっすらと目を開いた



「ん、ぅ…」

「名前…?」

「ハク、釜爺…」

「名前!」



名前の手を引いて抱き寄せる
もうあの酷い熱は感じられない



「あれ、私、生きてる…?」

「ああ、生きてるよ名前…!」

「やった!千がやりおった!」

「千…?あの子が、銭婆のところまで魔女の契約印を?」

「そうじゃ、私が名前を助けるって言ってな」

「そっか、そっかぁ…」



名前は涙を流して笑う



「私、銭婆のところに行った時、死んでもいいって思ったの
もう沢山生きたし、ハクが助かるなら私の命なんてどうでもいいやって本気で思ってた
だけど、助かって、ハクの顔を見て、死ななくて良かったってすごく安心したの
ハクに会えなくなる事が、こんなに、こんなに怖い事だって気付かなかった」

「私も、名前が二度と目を覚まさないんじゃないかと怖くて怖くて仕方なかった」

「心配掛けてごめんね、釜爺も本当にありがとう
千尋はどうやって銭婆のところへ?」

「電車じゃ、ちょうど切符があってな」

「そっか、あの子の事だからきっと帰りは線路を辿って歩くなんて言い出しそうね
でも沼の底はとても遠いし…、ハク、千尋を迎えに行ってあげて」

「名前は?」

「私は、ちょっと湯婆婆に話があるから」



千尋にお礼をしないと、と名前が身なりを整えて立ち上がる
その瞳には、強い決意の色が浮かんでいた



「分かった、気をつけて」

「大丈夫よ、行ってらっしゃいハク」



触れるだけのキスをして、私は外へ、名前は油屋の最上階へ向かう
見上げた空は既にうっすらと明るくなり始めていた



終わりの前触れ
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