ほんのちょっとだけ

女性なら誰しもこの日を不快に思ったり、苦痛を我慢しながら過ごしたり等、まあ決して楽しいイベントではないはずだ。物理的な痛みはもちろんのことなにかと日常生活に支障を来すこともあるし、突然の奴らの来襲は授業中だろうが勤務中だろうがデート中だろうがお構いなしであって。なにか身体的な異常でもない限りは、すべての女性が毎月平等にこの襲撃を受けることになる。そう、月に一度のレディースデイである。

この世に生を受けて早二十×年が経っていたのでさすがに上記のようなことはもう享受していたが、一つだけ許しがたいことがこの世には存在していた。それは主に教師や上司など、目上の男性によるセクハラ問題である。
数年という月日がたった今でも忘れられないあの非道な言葉の数々。体育のゴリ岡(ゴリラ顔の田岡教諭)が放った「みょうじまたアレか?さぼってるだけじゃないだろうなァ」も、高校時代のバイト先のピッコロ店長(なんか顔色の悪いハゲ)による「今日なまえちゃん機嫌悪いんだよね、二日目かな」という陰口も、私の脳にはしっかりと刻み付けられている。しかしこれくらいの暴言なら女性なら一度は耳にしたことがあるはずだし、私ももう大人だ、甘んじて受け入れよう。

だが、この世に蔓延る暴言の中でも許せる類いとそうでないもの、つまり訴訟沙汰にされても仕方がないと思える案件があるのも確かだ。そしてつい今しがたこの職場で私に向かって放たれた言葉は紛れもなく後者である。
現にその発言に硬直してしまったのは私だけではなく、同じく従業員として働く未成年女子Kちゃん、未成年男子Sくんも同様の反応を見せているのだ。さらに言うならばこの男性であるS君の反応こそが、発言の主ー容疑者S田氏の発言がいかに非道かを物語っている。
まあ彼は年の近い姉がいることから普通の男性よりも女性の気持ちがわかるというのも若干はあるかもしれないが、S田氏の発言は同じ男性でさえも「これはひどすぎる」と思えるものであるのが諸君にもおわかりいただけるだろう。

さて、前置きはこれくらいにして、件のS田氏の問題発言をここでもう一度聞いてみよう。そのような問題発言を二度も言うか?と思う方もいるだろうが、なあに心配はいらない。S田氏は紛れもない馬鹿で、デリカシーのかけらもないセクハラ毛玉親父である。いかに場の空気が凍りつこうとも、それが自分のせいだとは思ってすらいない類いの馬鹿である。私の一言があればいとも簡単にあの発言を引き出せるはずなのだ。

「えっと、銀ちゃん今なんて?」
「だからそんなにしんどいんだったら銀さんが止めてやるって、十ヶ月くらい。ほらパンツ脱いでこっち来いや」


おわかりいただけただろうか・・?
残虐な言葉の刃とセクシャルなワードが従業員の女性をいかに傷つけ、怯えさせているのかを。これこそが非道な妖怪毛玉親父の正体である。しかもこのような現象は諸君らの身にもいつか起こってしまうのかもしれない。なぜなら・・

「この世には同じ人間とは思えない闇の毛玉の住人たちがいる。毛玉親父は時として牙を剥き、私たちを襲ってくる。しかし現実にはそんな奴らから私たちを守るために地獄の底からやって来た正義の使者、などいないかもしれない・・・」
「ぬ〜べ・・じゃねェよ!ていうか毛玉親父ってなに!?闇の毛玉の住人ってなにいいい!?俺のことか、俺のことなのかァァ!!?ゲゲゲなのか鼻毛なのかどっちかにしろっつーのッ!!」
「銀さんが二回も変なこと言うからでしょう!?どうするんですか、なまえさん完全に壊れちゃったじゃないですか!明後日の方向見てブツブツ言ってるもん、ってか諸君って誰だァァァ!」
「何言ってるネ新八、なまえのミステリー番組好きによるこの口調は今に始まったことじゃないアル。この前も昔のアンビリバブル見ながらなんかブツブツ言ってたネ、デジカメの普及のせいでもう心霊写真特集は見れないのかとか、あの頃のアンビリバブルこそバリバリ最強NO.1だったとか」

おわかりいただけただろうか・・?
このように彼等はいつの間にか当初の問題から目を反らし、さながらコントよろしくボケてはつっこみ何事もなかったように振る舞うのである。すでに先のセクハラ発言について覚えている者はおらず、いつの間にか焦点はアンビリバブルに移っているのだ。
しかしこのような万事屋独特の雰囲気に惑わされてしまっていれば、いつまでたっても女性の人権は守られることはない。さあ、今こそ声高に訴えようではないか!

「バカ毛玉謝れ、三つ指ついて私に詫びろ。あと慰謝料寄越せ!」
「バッカヤロ、なんで俺が謝んなきゃいけねーんだよ!親切心だろーが!!」
「ちょ、二人とも止めてくださいよ!いい年こいてなに取っ組み合いなんてしてるんで・・グボフォオ!」
「あ、ごめん」




まあ、なんだかんだこれが万事屋のいつもの光景だった。
大抵発端は銀ちゃんによるセクハラ口撃。それに私が言い返して、銀ちゃんももちろん応戦するし、今日みたいに神楽ちゃんや新八くんが加わることも多々あった。
段々とヒートアップしてきたところで、それを止めに入ってきた誰か(主に新八くん、たまに長谷川さんや桂さん)が代わりに負傷する。それを受けてお互い不本意ながら一時停戦、あとはなあなあで仲直りするっていうのが一連の流れ。・・だったんだけど。

「・・もう、いい加減にしてくださいよ二人とも。毎日毎日当てつけてるんですか?」
「そうネ、なまえが万事屋に転がり込んできたあたりからみーんなわかってるアル」
「ハァ?」

二人の訳のわからない物言いに返した言葉が銀ちゃんとハモってまた嫌な気分になる。お互い眉間にしわを寄せた不細工な顔を見合わせてから、「フンッ」と逆方向にそっぽを向いた。・・こんなリアクションさえも同じだなんて、本当に気分が悪い。

「大体銀ちゃんが分かりづらいのがいけないアル、なまえは年の割に経験ないんだからもっとはっきり言ってやるべきネ」
「ええっと・・神楽ちゃん?ちょっと意味分かんないんだけど」

普段は仲良しな神楽ちゃんだけど、十近く年下の彼女にここまで言われてしまえば流石に頬も引きつった。横から聞こえてくる馬鹿天パの「やーいガキ」って声ももちろんムカつくけど。

「なまえさんもなまえさんです、銀さんの性格なんて今更わかってるでしょう?なまえさんが大人になってあげなきゃ」
「おい新八それどういう意味だ?」

新八君に暗に「子供だ」と言われた銀ちゃんが悪態をつき、今度は私がそれを笑う番。そしてまたそれに気がついた銀ちゃんがつっかかってくるのだけど、神楽ちゃんと新八くんが見計らったかのように同時に溜め息なんてつくもんだから。

「んだよお前ら言いたいことあんなら言えっつーの」
「そうだよ、水臭いよ二人とも」

さっきまでの攻防はどこへやら、銀ちゃんと一緒になってそう言ってみたはいいものの。相変わらず二人はげんなりとした顔で私たちを見据えてくる。仕舞いには定春までもが嫌な目つきでわう、と一吠えした。
四人と一匹ただただ眉を寄せて見つめ合う。その中で最初に音を上げたのは新八くんで、「じゃあ言いますけどね」と前置きした上で、こんなことを言い出した。

「その・・毎回銀さん、あれですよね?なまえさんにめちゃくちゃわかりにくい告白してるだけですよね」

一瞬彼が何を言っているのか全く分からなくて、とりあえず銀ちゃんに視線を移す。だが銀ちゃんもまた言葉の意味がわからないようで、いつも以上のアホ面をかましていた。
次にこの状況を破壊しにかかったのは神楽ちゃんで、彼女もまた十四歳とは思えないとんでもない言葉を口にした。

「要はあれアル、さっさとくっついて孕ませるなり何なりすればいいって話ネ」





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