貴方の愛で抱き締めて
「どうしたんですかィ」
「…え?何が?」
「ここ、眉間にシワ寄ってますぜ」
昼食時、食堂で給仕をしていたら目の前にお膳を持った総悟くん。トントンと自分の眉間を叩いて首を傾げた彼に、何でもないよと笑って返せば。
「土方コノヤローのせいですかィ」
なんて、真顔で核心をついてくるから。
「あ、のね…私」
「ナマエさん?」
「もう、どうしたらいいか…っ」
相談出来る相手なんて、誰もいなかったの。ましてや話を聞いてくれる人でさえ。
だって彼はここのトップだもの。もし私の悩みでも、広まればきっと迷惑になる。そう思ったら言えなかった。
私が耐えればいいって、そう思って。
だけど、もう限界だったみたい。珍しく総悟くんが気遣う言葉なんて掛けてくれるから。
「すいやせん、ちょっくらこの人借りていきやす」
「え、あ、ハイ」
止まらない涙にわんわんと声を上げて泣き始めた私を見兼ねてか、総悟くんはもう一人の女中に声を掛けて食堂から連れ出してくれた。
最近、トシにも握られなくなった私の右手にある違う誰かの温もりが…嬉しいようで切なかった。
***
「落ち着きやしたかィ」
「…ん、ありがと」
ずず、と鼻を啜る音が聞こえて。偶然ポケットに入っていた皺くちゃなハンカチを目の前に差し出した。…けど、思いの外皺くちゃで自分自身も驚いた。使ってねェのになんで。
「ふ、何その皺くちゃなハンカチ」
それアイロン掛けたの私なのに、なんて。そう言いながらも俺の手からハンカチを奪った彼女。
涙で濡れた目をそれで覆って、総悟くんハンカチどんな風に使ってるの?と口元だけ、笑ってみせるから。
…本当に、ムカつく。
「…土方、テメーどういうつもりでィ」
「え、」
「ナマエさん泣かしといて、今更何しに来たってんで?」
スッと目を細めて見上げれば、そこには何故か息を切らした土方が立っている。そういや、コイツもさっき食堂にいたっけか。
何か言いた気な顔してナマエさんを見てるくせに、俺の挑発的な言葉には何も返してこねェ。ただ黙ってそこに立ってるだけ。
…ムカつく。そういうとこも含めて本当ムカつく。
「言わせてもらいやすけどね、近頃のアンタの態度は俺らから見ても…」
「総悟く、」
くい、と引っ張られた隊服の袖。隣を見れば泣きそうな顔で俺を見ているナマエさん。ふるふる、と首を振る彼女に俺はもう何も言えなくなる。
どうして、辛ェ思いしてまでそんな奴を選ぶのか。俺には到底理解出来ねーけど。
「ハイハイ、分かりやした。邪魔者は退散しやす」
「っごめん、なさい…ありがとう」
さっきまで辛そうな顔してたナマエさんが、そんな顔して笑うなら。それでもいいか、なんて思えるから。
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