俺は思った。 つい最近、気がついてしまったのだ。
何の因果か、神様の悪戯か。 ………なんだろう後者の言葉が俺の心を傷つける。 ものの例えじゃないって辺りが凄く痛い。
綾部とか、善法寺先輩とか、鉢屋とか、鉢屋とか、鉢屋とか。 インパクトの強いというかキャラというか属性が濃いというか。 そんな奴らを遠ざけたり突っ込みを入れたり逃げたり殴ったり。 あ、殴ったりは鉢屋限定な。 流石の俺も後輩や先輩にそんな真似はしない。 鉢屋? あいつはいいんだよ、なんか嬉しそうだから。
えーと、話がそれた。
つまりだ。 俺はアクティブに向かってくる奴らをちぎっては投げしているけれど、その反動で特に変な行動に出ない奴らに対してはそこそこのことは許してしまうし、そこまで冷たい態度にもならない。
そしてそんな奴らも、俺に対して好意は持っていてくれるみたいだが大幅な好感度のアップもない代わりにじわじわと塵も積もれば…なんて事になってるんじゃないだろうか。
なんで俺が突然そんなことを考え出したかといえば、
「お、よう不破!」
「名前…!お、おはよう…」
最近不破が俺と目が合うと顔が赤くなります。
あっれー? 俺何か不破にしたっけか?
そう思い内心で過去の不破との接触を思い返すけれど何か特別なイベントがあったわけでもなく、執拗に構っていたわけでもない。 顔を合わせれば話すし、挨拶もするし。 でもそれは常識の範囲内だろ? 逆に言えばそれだけだし、不破と何処かに出かけたとかそういうこともない。
生前の、彼女いない暦=年齢だった頃の俺が今の俺の心中を耳にすれば
『けっ!目が合って顔が赤くなる程度で "あいつ…俺に惚れてるな?" なんて勘違いにも程があるだろ!大人しく家でギャルゲーでもやってろ!お前の彼女は画面からは出てこれないんだぞ!?あいつらを裏切る気かよ!!』
…とでも言っていただろう。 血の涙を流しながら。
今の俺より前世の俺に弁解しておこう。
『俺の身の安全の為なんだ…!貞操の、貞操の危機なんだ…!!』
…と、やっぱり血の涙を流しながら。 今も昔もあんまり変わっていないが、人の本質なんてものは早々変わる物ではないのだ。
「え、えーと…。 今日は鉢屋はいないのか?」
「うん、多分今頃食満先輩になってしんべヱを執拗にぷにぷにしてるんじゃないかな」
「ははは、なんだろうな。 人が違えば微笑ましい光景なんだろうがどう考えても性犯罪一歩手前にしか思えない。 しんべヱ逃げて超逃げて、もしくは食満先輩(本物)来て早く来て」
いや、食満先輩も、微妙…か…?
あの人が委員会で後輩と向き合っている姿は正直トラウマになる。 例えるならば、
善法寺先輩が 「僕は子供が大好きです」 って言ってもほんわかするだけだが。
食満先輩が 「俺は子供が大好きです」 って言ったら上級生はまあまず自分とこの委員会の後輩をその背に隠すよな?
印象って大事だな? 普段からの行いって大切だよな?
そんなことを考えていたら、何を思ったのか少ししょんぼりとした雰囲気で不破が呟いた。
「…やっぱり、」
「ん?」
「会ったのが三郎じゃなくて、僕で、がっかり…した…?」
「……は?」
明らかにどよんとした様子で、目を伏せている。 今なら一年ろ組に入れるぞ不破。
俺はいまいちその『どよん』の意味がわからない。 どれくらいわからないかというと、 あれはりんごですか? いいえ、ボブです。 とか書いてた英語の教科書くらいわからない。
いや、そんなことはいいんだ。 とりあえず、目の前で友人がへこんでるんだ。 えーと不破が鉢屋じゃなくて俺ががっかり? どういう意味だ? …まあいいか。
「何言ってるんだ、不破。 俺は鉢屋に出くわすよりもお前に会える方が断然良いに決まってんだろ」
「…え?」
「鉢屋は俺に苛立ちと怒りを運んでくるが、お前は癒しとひと時の平穏を与えてくれる。 これは貴重だ、すごい貴重」
「名前…」
「鉢屋と不破は同じ格好で顔してるけど、一目でわかるな。 腹立つほうが鉢屋で、可愛い方が不破だ!」
「え、ええ!?ちょ、名前…!?」
「ん?なんだ?」
何か間違えたか?
これからいかに俺が鉢屋から被害を被っているかをぐだぐだと話していこうと思ってたのに、不破の様子が変だ。
改めてしっかり見てみると、不破が顔を赤くして固まっている。 何かを悩んでいるような。 むしろ混乱しているような。
上手く状況を掴めずに頭の周りに疑問符を浮かべれば、耳の奥の方で小さいけれど連続したファンシーな音が響いている。 ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん、ぴろりん… まだまだ続いている。 なんかこう、RPGとかでレベルの低い仲間を連れて強い敵を一撃で倒したときのレベルアップの嵐、鳴り止まないファンファーレ的な。 連鎖の続いた時のパズルゲームでも良い。
「…おい、不破…?」
一応、相手は男であろうとも友人だ。 しかも不破はあんまり俺に対して妙なアプローチはしてこないし、イベントも起こらない。 俺の中のなけなしの優しさ故の言葉だったのだが、不破はびくっと体を震わせてからわたわたと俺と距離をとり始めた。 え、なにそれ。
「ぼっ僕用事を思い出したから…! じゃあね名前、またね!!」
「え?」
言いながら、不破は廊下の窓を開けてそのままひょいと飛び降りた。 うお!?大丈夫なのか!? ぎょっとしながら慌てて窓から見下ろせば、物凄い速さで走り去っていく不破を見た。 凄いな、さすが忍者のたまごだ。
感心しながらぼーっと眺めていたら、いつの間にか隣にいたらしい勘ちゃんにぽんと肩を叩かれた。
「…名前はわりと自分で自分の首を絞めるタイプだよね」
「え?何が? ていうか不破のかわりに聞いてくれよ俺の鉢屋への愚痴を!」
「はいはい、あんまり気軽に可愛いとか言わない方が良いよ名前」
「あー確かに男が可愛いとか言われても嬉しくないかー」
「うんうん、名前が思ってるのとは違うけどもうそれで良いよ」
名前は男は近寄るな、とか言うわりに相手によっては防御がびっくりするほど薄くなるよね。
疲れたようにため息をつく勘ちゃんを気にせずに俺は昨日の鉢屋の愚痴を勘ちゃんに聞いてもらうことにした。
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好感度の上がり方は人によって違うという。
勘ちゃんは普通に上がるし、三郎は『なんで!?』って言うときにぴろりんって聞こえてくる。 久々知は豆腐を上げれば上げるほど好感度が上がる。 無限に上がっていく。 竹谷も普通に上がる。 雷蔵はよく好感度上がるけど一気にじゃなくてちまちま上がる。
そんなイメージ。
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