「名前!今年のクリスマスは闇鍋と闇ケーキで決まりだ!」

「なんだ闇ケーキ」

「ご、ごめんね三郎言い出したら聞かなくって…。
あ、名前はぬるっとしたの平気な人?」

「ぬるっとしたのを一体どうする気だ」

「名前、今年のクリスマスケーキはフェイクスイーツにしてみるとかどうだ?」

「その手に持っているものはなんだそうか豆腐か苺の代わりに梅肉でものせる気か」

「いや苺は苺だけど?」

「なにそれ気持ち悪い」




ドアを開けて少しだけ後悔した。
チェーンをしっかりしてから開けるべきだった。

ドアを開けて、真っ先に三郎の顔が目に入った。
これは嫌な予感しかしないとそのまま勢いよく扉を閉めたが、何故か扉が閉まらない。
まさか、と思い視線を下げればそこには鉢屋の足が!
なんてことだ!
…と思う前にじわじわぎりぎり地味に鉢屋の足に扉による圧力をかけてやる。
お前のその無駄にセンスの良い靴に嫌な感じで扉の跡をつけてやるぜ!


どうもこんにちは。
死んで転生する際に神様にギャルゲーの主人公のような生活がしたいとお願いしたらどういうわけか野郎共によるハーレムが出来上がっていたものです。
そんな俺も地味に波乱万丈ながら一生を終えて次の俺の追加リクエストをわくわくてかてかしながら待っていたらしい神様を軽くスルーして『次は普通の生活でお願いします平凡万歳』とだけ言ってこうして再び転生しました。
人生一度きり、とか言った奴誰だ。

そして俺の前の前の人生とあまり変わらない生活を過ごしていたら驚いた事に俺の家の隣に前世である室町時代に転生していた際の幼馴染、勘右衛門が引っ越してきたのである。
それをきっかけだったのか何なのか、俺のまわりにはいつの間にか再び以前のようなメンバーが集まっていた。

しかも今回は、ギャルゲーのような生活ではない。
普通の友達としてだ。
……まあ、こうして改めてわかるのは鉢屋がゆるぎないという事くらいだろうか。
ここまでぶれないと逆にちょっと好感がもてる。
俺に言い寄ってこない鉢屋なんてただのハイテンションの変態だ。
イケメンは須らく爆発するべきである、と常に唱えている俺でも『鉢屋はセーフ』と判断したくらいである。
イケメンであっても女にもてなければそれで良い。

俺は各々手に持っているビニール袋から妖しげな何かをチラリズムさせている友人達に、にっこりと笑いかけた。
因みに未だ鉢屋の足を執拗に痛めつける作業は止めない。
泣くまで止めない。





「今年のクリスマスは終了しました」

「ちょ、名前!扉閉めないでよ!
ていうか去年も同じこと言ってたじゃん!」

「何言ってんだ勘右衛門お前冬休みだからってニュース見てねえな?
今年から12月は23日までいったら一気に26日までとばすって法律で決まったじゃねえか。
これは大晦日、正月をより効率よくすすめることによって日本文化の何たるかを再確認させるのが目的であり国が親が子供にお年玉をあげる為の金を残させてやろうという珍しく国民の目線で見た政策をだな」

「適当にそれっぽい事でっち上げないの!
ほら!雷蔵と竹谷がちょっと信じかけてるでしょ!?
嘘だよ!?嘘だからね二人とも!」



折角ちょっと信じかけていた不破と、わりと素直に『そうなのか!?』とか反応した竹谷を勘右衛門が制した。

久々知と鉢屋はそもそも嘘を嘘だと見抜ける人間である。
久々知は俺の説明の途中で興味を失い、自分で買ったらしいスーパーの袋をのぞいている。
なんかうっすら透けて見える中身が全体的に白い。
苺の赤さだけが目立つ。
これ絶対に買うときレジの人に二度見されただろうなあ。

鉢屋は同じように便乗して、『あれはそもそもフィンランドのサンタクロース問題が事の発端だったんだよな』とか適当にあわせてくれている。
こういうときのノリの良さは素晴らしい。
冬で寒いから玄関開けたらパンツ一丁だった、という事態にも直面しないし冬の鉢屋はかなり大人しい。

どうでもいいが、勘右衛門だけスーパーの袋じゃなくてエコバッグなんだな…。
今も昔も勘右衛門はおかんであるということが今ここに証明された。


いやあ…しかし本当にこいつらが前世のときのような目で俺を見なくて本当に良かったなあ…。
あの時は室町時代だったからまだ男同士という事についてあまり抵抗は無かっただろうけど、今の時代でそんな事になればアッー!か道行くその筋の女の子達ににやにやされるかのどっちかだろう。

俺は今の時代と普通であるという事の素晴らしさをかみ締めながら、さっきから悩んだままの不破に声をかけた。




「不破は何買ってきたんだ?
さっきのぬるっとしたもの発言が気になって仕方がないんだが」



不破の持っていた品物を適当に放り込んだらしい袋をひょい、とのぞきこもうとした。




「え?…ちょ、うわ!名前!ち、近い……!」

「………あ?
ご……ごめん…?」



しかし、何故か顔を赤くした不破がかなり大げさに俺と距離をとった。
不破の反応についていけずにぽかんとしながらもとりあえず謝ってみる。

…なんだかとても知ってる感じの反応なんですが。


俺はそのまま錆びたロボットの如くぎくしゃくと竹谷の所に一直線に向かった。
竹谷はそんな俺を相変わらずイケメンスマイルを浮かべて見ている。
…なんだろう。
デジャヴっていうか、凄く知ってる感じなんですが。




「…おいちょっと竹谷こっち来い。
今の世界で好感度とか流石に無いよな…?」

「ちょっと来いとか言いながらお前の方が来てるよな!」

「いいから質問に答えろよなんだその爽やかなスマイルお前なんぞもげてしまえ」

「ひでえ!んーそうだな。
好感度云々とかは多分もう無いと思うぞ?
音しないだろ?」

「…まあ、そうなんだがな。
あれ以来俺ギャルゲプレイする時好感度上がるとちょっとびくっとして凄い迷惑なんだけどこれトラウマかなトラウマだよな」

「そこでギャルゲーを止めない時点で微妙な所だよな。
まあ、でもあえていうなら」

「……聞きたくないが、なんだ?」




ひそひそと、腹話術のように口を動かさずに話す俺と道行く女の子達に『きゃーあの人格好良い!』とか言われいる竹谷。
なんていうか、友達だからこんな事言いたかないがこいつクリスマスとバレンタインの間だけどこかで山篭りでもしてくんないかな。
山に入って片眉剃ってきちんと生えるまで出てくんじゃねえ。

この手のことは常に爽やかにずばっと言っていた竹谷だが、珍しく言いづらそうな顔で少し口ごもっていた。
おお、珍しい何事だ。
けれどそれはほんの一瞬の事で、竹谷はすぐにいつもの笑顔に戻るとそのまま冬だと言うのに寒さを全く感じさせない笑顔で口を開いた。




「俺たち全員室町の頃の記憶があるんだぞ?」

「……それは、知ってるが」

「つまり、あいつらがお前に対して乙女のようにきゃーきゃー言ってた記憶もそのまま受け継がれてるっつーわけだ」

「……………」

「そうだな、名前がわかりやすいように言うなら…。
好感度引継ぎで新章に突入、しかも今度は好感度が自動ステルス機能付きで調整するのが難しいぞ!」

「……………………」

「難易度がぐっと上がったな!
頑張れ名前!この情報は俺からのクリスマスプレゼントだ!」




竹谷の言葉に俺の思考回路は停止した。

近くにいて俺たちの会話が耳に入っていた勘右衛門は苦笑している。
お前、さては気づいてたな…?

恐ろしい形相で勘右衛門の方を見た俺を偶然目撃した鉢屋が両手で顔を隠してその隙間から俺を見ている。
凄い、どうしたらそこまでうざくなれるんだ鉢屋。
思ったけれど、思っただけで口にはしなかった。
言ったが最後絶対に好感度が上がる。

俺はうつろな目のまま、空を見上げた。
世界はなんて無情なんだ。


神様神様。
今度は是非平凡な生活でお願いします。
もう色々とまっぴらごめんなんです。


神様 > こうですか?わかりません!><



新しく転生するときにわずかに聞こえたその声をもうちょっと真剣に考えるべきだった。





「……こんな世界滅んでしまえ」

「え!?どうしたの名前なんかRPGの魔王みたいなこと言って!」

「そうだぞ、豆腐が無くなったら困るだろう」

「なんだそれ面白そうじゃないか!
名前、名前!
お前のその野望を手伝ってやるから世界の半分を私に譲れ!」

「とりあえず、クリスマスにする発言じゃないな」

「名前、世界滅ぼすにせよ俺の家は残しといて」










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