あ…ありのまま、俺の身に起こった事を話すぜ!
『俺は転生の際に神様にギャルゲのように女の子に囲まれてきゃっきゃうふふする生活を送らせてくれとお願いしたら、いつの間にか野郎共ときゃっきゃうふふを強要させられそうになっていた』
な…何を言っているのかわからねえと思うが俺も何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
彼女いない暦=年齢前世含めて記録更新中だとかボブゲだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…!
そんな俺だが、実はもっと小さいころは自分が女の子に囲まれてきゃっきゃうふふという状況ではなくて野郎共に貞操を狙われる日々を送る羽目になるだなんて思いもしなかった。
今はまだ幼いから女の子が寄ってこないだけで、その時点でもうすでに忍術学園というところに行く事が決定していた俺はただ純粋に神様に日々感謝して楽しい毎日を過ごしていた。
そんな時期が俺にもありました。
もしも過去に戻れるとしたらどうしたい? というよくある『もしも』の質問があったならば、俺は迷わずまだ被害が少なかったこの時に山にでも篭るか、忍術学園に入学するのを止めるか、それとも何の因果か家のしきたりのせいで男だけど女として育てられて女装してくのいち教室に!同室の可愛い女の子にさっそくばれてしまって…?という状況に持っていく。
おそらくくのたまにばれたらその時点で俺の人生の試合終了のお知らせなわけだが、例え気が強くても俺の命を狙っていたとしても最後に俺の目にうつるのが女の子だったというだけで幸せな一生を終えられそうなそんな境地に至っている俺にとってはバッドエンドをある意味でのハッピーエンド、ということで片付けてしまうだろう。 いや、まあそういうエンディングなギャルゲとかあったし。
まあ、何が言いたいかといえばだ。
「…名前?もしかして、名前じゃない!?」
「いいえ俺の名前は名前ではありません、ボブです」
「その物の言い方、やっぱり名前だ!」
「違います名前なんて名前じゃありませんボブだっつってんだろ」
「…名前、誰なのボブって」
こういった事態を極力無かった事にしたいわけである。
勘右衛門と一緒に廊下を歩いていたら、前方から来ていたなんかちょっとちゃらちゃらした感じのリア充っぽい新入りが歩いてきた。 こいつ髪結いで女の子にモテモテなんだってな。 髪は金髪だし髪型は今この室町時代ではありえないほどの先取りさ加減であるアシメだし本当に俺の前世でのトラウマスイッチを連打する塊のような存在である。 あーやめてやめてお前みたいなのがクラスにいると何かの時に男女でペアを組むときに俺とペアになった女子があからさまに『チィッ!』って顔するからできれば俺の視界に入ってこないで!
なるべく視線を外しながら通り過ぎようとしたら、そのリア充が目を見開いて俺の腕を掴んだ。
そしてさっきの言葉だ。
妙に親しげに話しかけてきたこいつを俺は知らない。 目で勘右衛門に問うても、首を左右に振るだけだった。 物心ついた頃から一緒にいるこいつでさえわからない事が、この出来の悪い俺の頭で果たして本当にわかるだろうか。 否、わかるはずがない。 ただでさえ相手が野郎なんだ、何か因縁レベルで過去にひと悶着あったとしても1…2…ポカン!で綺麗さっぱり忘れている。
「どちら様ですか?」
俺にしては真っ当な返事を返した。 だがしかしその顔はかなりの嫌悪感がにじみ出ていることだろう。 まるで街中で『やだ…みんなが見てる…』『見せ付けてやろうぜ…!』とか言いながらいちゃついてるカップルを見たときのような目で見る俺。 ちなみにあの手のカップルに対してガチで指をくわえて至近距離でガン見するとかなり本気で怒鳴られるから良い子は真似するなよ! 前世の俺はかなりへっぽこだったから腰が抜けるかと思ったぞ!
目の前の金髪は俺の言葉にかなりオーバーに落ち込んでみせた。
「そんな、酷いよ名前…。 昔結婚の約束までした仲なのに…!」
「………血痕?なんだって?」
「……名前、お前いつの間に…?」
この金髪の口から飛び出してきたけっこんの文字が何故か変換できません。 俺の頭の中の辞書には『けっこん』は『血痕』としかのっていない。 ちなみに俺の脳内辞書には『けっこんしき』は『血痕式』であり、殴り合って滴り落ちる血によって絆を深めたり何らかの契約を結ぶものであるとなっている。
よって、まったくもって目の前の人間の言う言葉は理解できない。
勘右衛門はと言えば、純粋に驚いているようだった。 記憶を掘り返しても中々それらしい記憶が出てこないからだろう。 奇遇だな、俺もだ。
「昔、まだ僕達が幼かったころ…」
「え?ちょっと別に聞いてない、聞いてませんけど」
まるで当然の流れとでも言わんばかりに話しだした金髪リア充に、俺はそいつの右斜め四歩先に仕掛けられている一年生の二人組みの作品に引っ掛けてやるか、それともそいつの左隣にある四年生の綾部の掘ったタコ壷44号に落としてやるかどっちがいいだろうかと本気で思う。
そんな俺の考えを読んだのか、勘右衛門が 『まあとりあえず聞いてみようよ。 俺も気になるし』 とか言い出したのでとりあえず大人しく聞いてみることにした。
本当に、四年生は人の話を聞かない連中の集まりだな。
「昔僕は父さんの仕事が忙しくていつも寂しく過ごしていたんだ…。 そんな毎日が続いたある日、一人の男の子が一緒に遊ぼうって誘ってくれたんだ。 嬉しかったなあ…、女の子とはよく遊んだけど男の子にそんな事言われたの初めてだったし…」
「なんだそれ女の子と遊んだ事すらない俺に対する嫌味か、呪詛か何かの一種かお前足払いかけて生死の境さ迷わせるぞ」
「まあまあ、おさえて。 …それで?」
「その日はずっと一緒に遊んで、それで別れる時間になっちゃって。 また会える?って聞いたのに『さあ知らね』って答えるし…。 僕が悲しくなって泣きそうになったら『お前が大きくなったらまたいずれ会えるかもしれん』って言って、それで」
「……それで?」
今の話のどこに結婚の約束要素が含まれていた。
金髪リア充は恥ずかしそうにもじもじしている。 どうでもいいが制服の色を見るに、俺よりも年下のはずなんだが何故にタメ口か。 うっかり敬語を付け忘れた新人をねちねち執拗に苛めるお局の如くいびるぞこの野郎。
「『お前が将来良い女になってたら結婚してやる』って」
「…………お前あれか? もしかして家の都合によって男装してるけど実は女の子でとかそういう…?」
「え?ううん、普通に性別男だけど」
「じゃあ何で昔の俺そんな台詞言ったし」
「それは僕が、小さいころ店の見習いの人の練習台で女の子みたいな髪型にしていて近所のお姉さんのお下がりの女の子の着物を着てたからじゃないかな」
「………お前、」
「あ、四年生に編入してきた斉藤タカ丸でーす。 そういえばまだ名乗ってなかったよね?」
いや、別に聞いてない。
俺は両手で顔を覆って、自分の運命を呪う。 ああ…もう本当にどこかに引き出しを開けたら過去未来自由に行き来できる機械とか落ちてないだろうかマジで。
『うは、金髪ハーフ幼女の裏幼馴染フラグキタコレ!』
とか思ってた当時の自分乙。超乙。 ちょっと本気で泣けてきた俺に、隣からどういうことだか説明しろオーラをかもし出している勘右衛門という難関が待っていた。
本格的に俺が貞操の危機を感じだしたのが、丁度三年くらいのころ。 それまではわりと俺は親切な奴で誰に対してもフレンドリーだった。 だから今、こうしてフラグを折り、ルートを潰ししている原因は当時の俺にあるのだ。
ああ…あの頃の俺がもっと自重していたならば…!
それ以降、俺は顔を合わせるたびに鋏と櫛を手にした斉藤に追い掛け回される作業がはじまるのであった。 …どうでもいいが、なんかこんなホラーゲームあったよな。 しゃきんしゃきん鋏をいわせながら神出鬼没に追いかけてくる斉藤を段ボール箱に入ってやり過ごしながらそんな事を考えた。
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