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名前という人間は、物心ついたころから鉢屋三郎と一緒で気がついたころにはつないだ手の先にはいつも鉢屋三郎がいました。

ある日、歳の数が10を数えるころ三郎は名前を見て泣きました。




「名前、名前」


「さぶろー君、どうしたの?誰かに苛められたの?」


「違う、私、忍術学園に行くことになったんだ」


「にんじゅつがくえん」


「私、忍者になるんだ。だから父上が学園に入れという」


「にんじゃ」


「私、私嫌だー…」


「さぶろー君、忍者になりたくない?」


「忍者も嫌だけど、 学園に行ってしまえば名前に会えなくなってしまう。嫌だ、いやだよ名前。 私名前と離れたくないー…」




そうして、ぼろぼろと大粒の涙を流します。
勿論しっかりと名前の手を掴んだままです。
正直少し痛かったですが、三郎の方がよっぽど痛そうに泣くので名前は何もいえませんでした。


泣きじゃくる三郎に、名前は考えます。


自分も三郎とは離れたくない。
できるならばずっと一緒にいたい。

だったら答えは簡単です。




「よしわかった、さぶろー君!」


「な、なに…?」


「私も行く!私もにんじゅつがくえんに通う!」


「え…?」


「そして卒業したらさぶろー君をお嫁さんにしてあげる!
そうしたら、きっとずっと一緒だ!」




名案だ!と笑う名前は繋いだ手を握りなおしました。
ぽかんとして三郎は名前を見つめました。

名前はにこにこと笑いながら、早速両親を説得する算段をしています。

名前の両親は少し変わった人間なので、やりたいことがあるのならば好きにすればいいとあっさり許可を出すことは目に見えていました。




今から四年ほど前の話です。









「おーいさぶろー君や」


「なんだ名前」



すっかり成長した二人は、大きくなっても隣同士並んで歩きます。

三郎が学園に入学して誰かの顔を借りて生活しなければならなくなり、同室だった不破雷蔵の顔を借りた時などは三郎を真ん中にして三人で歩きました。

それでも、こうして手を繋ぐのは名前は三郎だけで、三郎は名前だけで、そして二人のときだけしか繋がなくなりました。




「手を繋ごう、さぶろー君」


「…仕方ないな。ほら」


「わーい」


「あ、こら指を絡ませるな!」


「大丈夫誰も見てない見てない。それとも『そこに咲いてるお花が見てるー』とでも言う?」


「言うか!お前の中の私ってどんなだよ!!」


「えー?昼は天才変装名人。
夜も天才変装名人(性的な意味で)」


「…お前今なんか心の中で付け足しただろう」


「性的な意味で、って」


「アホか!!ちょ、お前、馬鹿!!」


「酷い、さぶろー君ひどい。
名前泣いちゃうから、泣いてさぶろー君をおろおろさせちゃうから」




言いながらしくしくと泣きまねをする名前。
それを更に顔を赤くして怒る三郎。

それでも二人の手はつながれたままでした。

名前も、三郎も、どちらも放そうとはしません。
三郎はこのままずっと手を繋いで生きていくのだと疑いませんし、
名前は名前で基本的になんでもそこそこやってのける自信があったので、 鉢屋三郎の行く所名前あり、を目標にずっとついていくつもりです。




「あ、ところでさぶろー君」


「なんだ」


「うちの母さんが白無垢縫うって言ってんだけど」


「…………………どういう、意味だ…?」


「どうもなにもそのままだよ。
さぶろー君サイズで作るか俺サイズで作るかどっち?
って手紙来たんだけどどうする?」




思わず不安になり握り締めた手に力をこめれば、
当たり前のようにそう言いだした名前に三郎は目を丸くしました。
『この際だからダブル花嫁でいっちゃう?』とか言ってる名前はとりあえず無視です、顔が緩みますが、無視なのです。




「…お前覚えてたのか」


「そりゃそうだよ、ちゃんとお金も貯めてあります」


「男同士でどうやって祝言挙げる気だ?」


「まずはさぶろー君家に『お宅の息子さんを僕に下さい、もしくは可愛いお嫁さんいりませんか!』って挨拶に行くだろー?」


「その時点でおかしい」


「そんで駄目って言われたら駆け落ちしよう。
因みにうちの両親は揃ってのりのりです」


「本当に変な人たちだよなあお前の両親」


「将来的にはさぶろー君の両親でもある」


「なんてこった」





いつもへらへらしていて、真面目な場面でもやっぱりへらへらしている名前だけどそれでも嘘は言わない男なのだ。

まさか幼いころの約束をも守ろうとしているとは思いもしなかったけれど、それでも笑ったまま顔が戻らないのだからきっとつまりはそういうことなのだ。

ずっとこの男に振り回されていくのか、と思うと頭が痛いけれど、ずっとこの男が隣にいるのか、と思えば満更でもない。





「ところでさぶろー君。
新しい発明品があるんだけど」


「なんだ」


「超強力接着剤でね、時間がたてばうまい具合に綺麗にとれるんだ。
木材でも布でも紙でも鉄だろうとくっつきます。
……無論、人体にも有効でーす」


「……は?」




言われた言葉に少し間をおいてから、まさか、と思い絡んだ手を離そうとした。
しかし、どれだけ力を入れても離れない。

名前はにやにやしている。




「いやあどっきりなラブハプニングだねえ」


「お前が作為的にしたんだろう!
どこがハプニングだ!!」


「いやあ困った困った。
どうしよう、これから暫く強制的におはようからお休みまでさぶろー君の暮らしを見守らなければならないなんて……あはは」


「おい笑っただろ!お前今笑っただろう!!」


「もっと強力なの作っとけばゆりかごから墓場までだったのに」


「本気で悔しがるな、この野郎!!」


「あははははー」
















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