七松先輩と私 | ナノ




「名前!とりっくおあとりーと!」

「はい、用意してました」

「おー!やったー!」

「ちょっと待っておかしくない?」




多分来るだろう、ということを想定してくのたまの友達と一緒に作った日持ちする菓子を取り出して渡してみた。

七松先輩の言った言葉の意味はよくわからないけれど、これだけきらきらした顔で私を見るんだからこれしかないだろうと判断した。
まあ、違ったとしてもとりあえずお菓子があれば何とかなる気がするという思いもあった。

嬉しそうに早速菓子の入った袋を広げようとしている七松先輩を、善法寺先輩が即座に止める。

おかしい、とは一体何が。
じとっとした目で七松先輩を見る善法寺先輩。
七松先輩は首を傾げながらも、そのまま床へと座る。
適当に胡坐をかいて脇の下に手を差し入れられて持ち上げられ、七松先輩の足の上へと移動させられる。
まあ、これもいつものことなので気にしない。




「何がだ?」

「その『はろうぃん』っていうのは、子供が大人にお菓子を貰ってまわるんでしょ?
なんで小平太が名前に強請ってるの!」

「…ああ、そういえば」




なるほど、確かにそうだ。

昨日は私と猪名寺君や鶴町君と一緒に先輩方にお菓子を頂いた。
その後いつものようにお茶をひっくり返したりこけた誰かがうっかりお菓子を下敷きにしてしまったりであまり記憶に残らなくて忘れていた。
一応子供が大人に貰う、ということはおぼえてはいたのだ。

そしてはろうぃんの話を聞いた時に、
『でもまぁ、七松先輩には適用されないシステムだろうな』
という結論をそこそこ早く出した私はついついそれが普通のことなのだろうと思い込んでいたのだ。

私を抱きかかえている七松先輩の方を見上げれば、不思議そうな顔をしている。
あーそうだろうなぁー…。




「でも名前は菓子を持ってたぞ?」




なー、とにこにこしながら同意を求められたのでとりあえず返事を返しておく。
善法寺先輩が頭を抱えた。
土井先生用の胃薬の他にも今度善法寺先輩用の頭痛薬も作ることにしようと思う。





「まあ、そうなるだろうなと思っていたので」

「後輩に気を使わせてどうするんだよ小平太!」

「だって作ってくれてると思ったし」

「それに友人達や一部の先輩も後輩に強請ったりすることがありますし」





だから多めに作って持ち歩いてるんです。

そう言えば善法寺先輩は少しだけ表情を緩めた。
もういっそのことそういうものだと割り切ってしまえば楽なのに、先輩も真面目というか何というか。

私の言葉でこの話は終了した、と思われたその時頭上から不満げな声が聞こえてきた。




「えー…」

「どうしました?」

「私だけに、じゃないのか?」

「この忍術学園に通っている生徒に悪戯なんてされたら、もともとの技術も合わさってえらいことになってしまうじゃないですか。
ここ一ヶ月の間だけのお守りのようなものです」

「…うーん」

「それに、渡すお菓子が無ければ妖に襲われるそうだよ。
だからそんな目でうちの後輩を見るのは止めてくれないか小平太」




じー、っと穴が開くほどの勢いで見てくる七松先輩に流石に少し居心地が悪くなる。
いくら慣れているとはいえこうして七松先輩にじっと見られるのは苦手だ。
五年生の久々知先輩の目力とはまた別の威力があると思う。

口をとがらせながら面白くなさそうな顔をしていた七松先輩を更にとがめようとして口を開いた善法寺先輩を遮って、ぱっと表情を明るくさせながら言う。




「やっぱりそれを私以外の人間が食べるのは嫌だ!
なあ名前、それ全部私にくれないか?」

「ちょ、小平太人の話聞いてた!?」

「ん?なんだ伊作さっきから五月蝿いぞ」

「誰が五月蝿くさせてると思ってるんだ!
友達や一部の先輩、妖や霊なんかにも悪戯されない為に多く作ったって言ってただろう!?」

「ああ!聞いてたぞ?でも、」




心底不思議そうに、笑いながら首を傾げた七松先輩。
いつの間にとったのかその傍らには残りの菓子がまとめて置かれている。




「それって私よりも強いものか?」




つまり私がはろうぃんの期間中ずっと傍にいれば良いということだろう?
だったら任せておけ!

そう言って笑う七松先輩。
…別に信じているわけではないけれど、この人霊や妖怪の類も倒してしまう気でいるんだろうか。
人外にも通じる強さってどんだけだ。

とうとう本格的に疲れた表情になった善法寺先輩をフォローすべく、私も考えながら口を開いた。




「大丈夫ですよ、善法寺先輩。
いざとなったら七松先輩が守ってくれるそうですよ。
身を呈して」




少しは気が楽になってくれるだろうと思っていった言葉に、何故か撃沈してしまった。
…あれ?もしかして何か間違えただろうか。
『勿論だ!』という明るい声を聞きながら、頭の中で頭痛薬に必要な薬草を思い浮かべた。








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