少女Aの本領 | ナノ






【少女Aの悪戯】



「はい、こちらに見えますのが三郎君作のお饅頭です」

「流石私、店で売られていても可笑しくない出来だ」

「そしてこちら。
我が作法委員会の委員長にしてこの手の面白いことが大好きな立花先輩が丹精込めて作ってくれた黒猫変身セットです」

「…おお……この手触りが本物っぽくて良い感じだ…」




くそ、やるな立花先輩…!
謎の闘志を燃やしはじめた三郎君に気にせず、淡々と今回の計画を話す。

因みに学級委員長委員会の部屋を借りています。
今日は委員会がないから必然的に私と三郎君だけ。
黒板にはでかでかと、

『竹谷八左ヱ門へ如何にして効率的に悪戯をするか』

と書かれていてその下にやけに真面目ぶった計画がずらずらと並んでいる。
書いてはそのまま消していたり、矢印をつけて書き込んでいたりしているが別に白熱した言い合いとかはしていない。
この部屋に来た時点で書かれていて、三郎君の手がチョークの粉で少し汚れていたから彼の仕業だろう。
というか、内容的にもどう考えても彼だ。

シチュエーションにこだわるタイプらしい三郎君が、こうした演出をしてくることはたまにあったので特に突っ込まずに詳細を話し始めた。




「今回は竹谷君に選んでもらうことにします」

「何をだ?」

「この三郎君作のお饅頭を食べるか、それともこっちの猫耳をつけるか」

「……何の迷いもなく私の作った饅頭を食べる方に一票」




はい、と小さく挙手をして言った三郎君に私も頷く。

竹谷君の事だから、私の体を心配してというものと猫耳見たさという感情で大体7:3くらいの割合での思いからお饅頭を選ぶだろう。

勿論、竹谷君が猫耳をつけてもそれはそれで楽しめるので良い。
もう少年というよりも青年の域に入っている竹谷君。
普段の授業や実習、委員会のおかげで焼けた肌と逞しい体。
そんな竹谷君が恥らいながらこの猫耳をつける。
それもありだ。
おおいにありだ。
そのときはきっと半泣きで、でもそれを悟られないように強がりながら『どうだ俺結構似合うだろー』とか言うんだろう。
茶化しきれずに耳まで赤くしながら。

…考えただけで愛しくなってくる。
竹谷君はかーわいいなぁ。




「ん?でも私この饅頭普通に作ったぞ?
そうならそうと言ってくれれば、もっと考えたのに。
超リアルな目玉型の飴とか、幼虫方の団子とか」

「もし私が食べることになったらそんなの嫌だもの。
だから、それで良いの」

「…なんかさらっと拒否された。
じゃあどうするんだよ」



言われて、私は懐に入れていた薬包紙を机においた。
小さく折りたたまれている粉末状の薬。
今は包まれていて見えないが、持てばさらさらと音をたてる。

三郎君が不思議そうにその薬を見て、首をかしげた。




「…これは、何の薬だ?」

「意識が一日から三日、昏倒する薬。
特に後遺症もないし本当に意識を失うだけの薬。
限りなく無味無臭に近づけてみたから、多分気づかないと思う」

「へえ、…ってお前また妙なもん作ったな」

「竹谷君への愛故に、です」

「随分と屈折した愛だな」

「うふふ」

「うふふ、じゃないだろう。
お前下手したらこれ食べるんだろ?」

「ええ、まあそういうことになるね」




若干心配そうにこちらを見てくる三郎君に、私は『それが何か』というような表情を笑顔に滲ませて返した。

机の上には、三郎君が作ったお饅頭と私が作った薬と立花先輩が作った黒猫変身セット。
とんでもない人間がタッグを組んだものだ。
これが普通の忍務だったら、ある意味最強で最悪なチームかもしれない。
全員が本気を出したら敵がトラウマが残っちゃう感じの。

今回は全員がお遊び程度のことだし、相手は竹谷君だからまあ大丈夫だけど。




「そんな、竹谷君にだけしんどい思いはさせないよ。
これくらいのリスクくらいは背負う。
むしろ竹谷君の半泣きの顔が見られるのなら安いものよ?」

「……本当に徹底してるな」

「うん、大好きだもの」

「あいつもとんでもないのに好かれたな」




嫌だな、三郎君。

昔々の竹谷君が、竹谷君じゃなかったら今の私はあり得なかったというのに。

呆れたように言うけれど、結局の所面白そうという気持ちが勝って何だかんだと手伝ってくれる三郎君には本当に感謝している。

自分の身を引き換えにしないで、可愛い竹谷君の顔は見られないのだ。
そういうところで妥協してしまうと中途半端になってしまう。
まあ、私は基本的に無駄なことはしない主義なわけなので。




「それで私が倒れて、慌てて抱き上げて保健室に行く竹谷君。
でもその格好は可愛らしい黒猫さん。
その逆で竹谷君が倒れて、私が半泣きで助けを呼ぶけど黒猫姿であらぬ噂が広まりきった所での起床。
弁解しようにも時間がたちすぎてる。
…なんて、そんな展開があったりなかったりするかもね」

「ああ、わかった。
私はその場合の噂を広げてまわればいいんだな?」

「さすが三郎君。
私の大切なお友達」

「いやいや?
いつも話題と笑いを提供して貰っている礼だ」




そして夜は更けていく。
霊や妖怪なんかよりも、生きている人間の方がずっと怖いのだ。
あれ?ちょっと意味合いが違うかな。
まあいいや、早く竹谷君に会いたいなぁ。











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