少女Aの本領 | ナノ




「頼む、名前!毒虫探すの手伝ってくれ!」




毒虫が脱走したのが丁度、昼過ぎのこと。
そして今は夕焼けであたりがすっかり赤く染まっている。
後、数匹なのだ。
けれど、その数匹がどうしても見つからない。


三郎や雷蔵たちは俺が毒虫を探しているらしいということを察すると見事な速さで消えた。
友人ながら『さすが忍者(のたまご)』とうならせるはやさだった。

下級生たちも疲れがみえてきて、ああどうしようと思ったときに名前の姿が見えた。

名前は俺と目があっても逃げ出さずに、嬉しそうに笑ってから小走りで近づいてきた。
こういうところが可愛いと思う。


開口一番そう口にした、切羽詰っている俺を驚いたような表情で見つめた後、





「うん、いいよ」





あっさりと承諾してくれた。
名前はきっと前世女神か何かだったんだろう。
俺はそう信じている。
小柄な名前から後光のようなものが見える。
薄情な友人達の後に見れば尚更だ。

俺は嬉しくなって、思わず名前の手を握り締めて





「助かる!俺、お礼になんでも言うこと聞くからな!」

「いいよ別にお礼なんて」

「いーや、前も同じように手伝ってもらったからな!
今度こそ何かさせてくれよ!!」

「うーん…」





悩みながらも、草むらを探索してくれる。
いつもいつも助けてもらっているのだ。
そのたびに『別に構わない』といわれ続けている。
だから、今度こそは何かお礼をしたい。

今だったら財布の中身も潤っているし、
多少高い食べ物だろうが
美しい簪だろうが、
きっとねだられたら躊躇せずに買ってしまうだろう。
多分、おそらく、それは言わないだろうとは思うけど。

困ったように悩んでいる名前は、
しかしふと思いついたように





「じゃあ、毒虫を探してる間は語尾に『にゃー』ってつけて?」

「は?」

「それがお礼でいい。
出来なかったら、御礼はいらないよ。ね?」





にっこりと笑う名前に、俺は目の前で笑う少女の思惑がよめた。


多少無理なことを言ってでも御礼を辞退するつもりなのだ。


その『多少無理なこと』でも可愛らしい内容な辺りに『確実に無茶なこと』を吹っかける三郎との違いだ。
名前と三郎は不思議と仲が良い。
性格が間逆なわりに不思議と馬が合うようだ。

俺は暫く悩むフリをする。
それを見て、小さく安堵する名前に内心で笑った。

本当に変な所で遠慮するやつだ。
絶対今度町に出かけたときにでも、お土産をどっさりと買いこんで押し付けてやる!
そう決意しながら、





「…よし、名前!早く見つけて一緒に晩飯食うにゃー!」





いえないとでも思ったか!


にやにや笑いながら名前の言ったとおりにしてみる。
きっと言い出した大元は三郎の入れ知恵だろう。
俺がそういえば、名前はかなり驚いたような表情を浮かべた。

人前では恥ずかしいが、
今此処では名前と二人だけだ。

基本的に名前は俺をからかったりはしないし、言ったとおりにしたとしてもそれを言いふらすような事だってしない。
これだけ信用できる友人もそういない。

だから、してやったり、という顔でもう一度笑ってから
再び毒虫を探そうと振り返って、





「…た、竹谷先輩…」

「毒虫、見つかりましたよう…?」

「先輩、にゃーってつけるなんて可愛いですね!」

「馬鹿!三治郎!見なかったことにしとけ!!」





後輩たちがそれぞれ虫かごを片手に、俺から視線を外しながら立っていた。

1年生たちは、なんともいえない視線で。

孫兵にいたっては、





「…僕、竹谷先輩にそんな趣味があっただなんて知りませんでした」





と、冷たい目で首に巻きついているジュンコをかばうようにして
吐き捨てるように言った。


なんで気づかなかったんだ俺…!!


気配に気づくのが遅れた、というだけでも恥ずべきことなのに更によりにもよって一番見られたくない現場を見られるとは…!!

名前は青くなる俺を見てあわあわと後輩達に、





「ち、違うの!今のは私が言ってって頼んだの!」





と言ってくれたが。





「何のためにですかー?」

「別に友達だからって庇わなくてもいいんですよー?」

「竹谷先輩の変態さーん」

「僕名前先輩がお優しいのは知ってますが、そこまで言ってあげなくてもいいんですよ?」





妙に優しげな目で、そういいながらさり気なく俺と距離をとらされている。
くのたまにしては珍しく温和である名前は、よく委員会の手伝いをしてくれているし俺とも仲がいいということを知っている後輩達は
『まさか名前がそんなことを言うとは思えない』
という思いで完全に一致している。


今、生物委員達の心が一つになった瞬間に立ち会っている。


……俺抜きで。




結局誤解がとけるまで、俺は名前に近づこうとすれば即座に誰かがとんできて生ごみを見るような目で見られながら、強制的に距離をとらされることになった。













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