【鉢屋三郎の証言】
くのたまの5年生である苗字名前は、私の大切な『同士』である。
ハチから『くのたまらしくないくのたまがいる』と聞いたのは私達がまだ1年生だったころだった。
しょうがないな、なんて呆れた風を装いつつも少し嬉しそうだったハチにこいつもしかして被虐趣味でもあるんじゃないかと思ったのはきっと俺だけじゃない。
実際に言ってみれば、怒って抗議するハチの後ろで勘右衛門が頷いていた。
その時は珍しいくのたまもいるもんだ、とか 行儀見習いで入った子だよきっと、とか そんな感じで片付けられた。
それから数日して、何か視線を感じるようになった。
いつも感じるわけでもないし、私に向けられているものでもなかった。 私以外は気づいていないようで、誰も特に何も言わなかった。
しかし、気になる。
一体誰が、何のために、何の目的で。
私達くらいの年頃で色恋沙汰が絡んだ視線が送られるわけはない。
いや可能性はなくもないがそういうものとは少し種類が違う気がする。
ある日視線の元を発見した私は、チャンスだとばかりに視線の元を問い詰めてみた。
そいつはじっと私を見つめた後、少し頬を染めながら口を開いた。
「あのね、私、前に竹谷君に助けられたことがあって」
「ハチに?」
その言葉にふと思い出すあのときの会話。
ああ、なるほど。
自分の予想は外れていたのか。 案外単純だった視線の謎に少しだけがっかりしながらもいやしかしこれはこれで面白くなるかもしれないと目を細めて笑みを浮かべてからかうように続けた。
「ああ、なるほどねえ。 ハチにも春が来たってわけか。 で、どこに惹かれたんだ?」
「泣き顔」
「………は?」
ハチが語っていた印象だと、こういえば頬を染めて走り去るか慌ててパニックになるかくらいを想像していたので返答の早さに咄嗟に反応できなかった。
泣き……なんだって?
「毒団子なんだから苦しいに決まってるのに、無理やり笑いながら『美味かった』なんて半泣きで言う。 そんな竹谷君にきゅんてしたの。 もっとあの顔を見てみたいけど、竹谷君が痛い思いするのは嫌だしそれが原因で嫌われるのはもっと嫌。 痛くさせないで、嫌われないで、でも泣いちゃうようなそんな風にするのってどうすればいいんだろう…」
真剣に悩みながら、確実に途中から独り言になっている目の前の少女の言葉に脳の理解力が追いつかなかった。
与えられた情報から確実な答えを導き出す。
それは自分が得意としていたものだった。 予想外のことが多かったから、結論を出すのがやや遅れた。
つまり、
「筋金入りのSなのか、お前…!!」
「Sってなあに?鉢屋君」
うっかりこのとき事細かに『Sとはなんたるか』を説明してしまったのが悪かった。
多分後のあの名前を作り上げる手助けをしたのは他でもないこの私だ。
悪いハチ。
一応心の中で謝ってはみるものの、その反面私の口元は自然と弧を描いていた。
とりあえず、物凄く面白くなりそうだということはよくわかった。
「よし、私がとりもってやろう! 今から私と名前は友達だ!私の友達として改めてハチに紹介してやろう!」
そういって手を引いた私と、嬉しそうについてきた名前はいまや大切な気のあう『同士』となったのだ。
勿論『同士』というのは、私と名前とで結成した”竹谷をいじめたおし隊”のだ。 隊員は今の所二名のままである。
そして今日もまた、名前はハチのところに向かう。
毒団子?
そんな課題は下級生に出される課題であって、上級生になった今そんな課題が出されることはありえない、ということにハチが気づくのはいつのことになるだろうか。
ごめんね、ごめんね。
そう謝りながら今回は痺れ薬らしい毒団子を食べ地面に倒れこみながらもなんとか笑顔を作り上げながらも体は一ミリも動かないという状態のハチを堂々と眺めながらきっと内心は恋する乙女のようにときめいているであろう名前。
その光景を少し離れたところで更に観察する私。
正直、笑いをこらえるのに必死だ。
これまでも、これからもきっと私と名前はハチがいる限りこれ以上ないくらいの友人であり同士であり続けるのだろうと思った。
ついでに懺悔するなら、その痺れ薬はあと一刻は効き目が続くぞ。
開発者からのアドバイスだ!
頑張れハチ!
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