【竹谷八左衛門の言い分】
くのたまの5年生である苗字名前は、憎めないやつだ。
くのたまも5年生となれば、行儀見習いで学園に入学していた生徒は学園を去り残っているのは本格的にくのいちを目指す生徒がほとんどだ。
その中でも、名前は他のくのたまよりも背も低く小柄だ。 とても体術に長けているとは思えないし、性格もくのいち教室では珍しく穏やかなほうだ。
昔はその穏やかさが災いして、『忍たまに毒団子を食べさせる』という課題がこなせずに途方にくれているの見たことがある。
そのときあまりにも困った顔をしていたので、思わず近寄ってわざと引っかかったりもしたけれど苦しむ俺のそばで半泣きになりながら何度も謝っていたことを今もまだ覚えている。
それがはじめての出会いだったけれど、そのとき思ったことは今も変わっていない。
名前はくのいちには向いていない。
どうすればわかってもらえるんだろう、と悩み続けて早五年。
何度も説得しようと思っているのにどうしても俺を見つけるたびに嬉しそうな顔で駆け寄ってくる名前に学園を辞めろとは言えなくなってしまう。
そして、今日もまた。
「竹谷君、あのね、このお団子なんだけど…」
「……今日のは何入りだ?」
「…………致死量じゃないし、そんなに苦しくもないと思うんだけど」
駄目かなあ、と困ったように俯く名前に俺はやっぱり勝てないのだ。
手に団子を持って駆け寄ってきた時点で、もう既に俺の心は決まっていたのだ。 未だにこの程度の課題もこなせない名前に呆れればいいのやら、染まりきらない名前に喜べばいいのやら。
わざとらしくため息をついてみせれば、びくりと体を震わせた。
何かの動物のようで、思わず手がのびそうになるがそこはぐっと我慢して勤めて憮然とした表情を保つ。
「…いい加減このくらいできるようになれよ。ほら、今回だけだぞ」
そんなやり取りも、もう何度目になるのだろうか。
言いながら手を差し出せば、名前は俺の手と呆れたような表情との間を視線を何往復かさせてからそれはそれは嬉しそうに、安心しきった顔で笑う。
ああ、困った顔にも弱いけれどこの顔にも弱い。
困ったことがあれば一番に俺の所に走ってくる、そんなところも可愛くて仕方がないのだ。
「ごめんね、味は凄く頑張ったんだよ」
「お前の料理が上手いのは知ってるって」
団子を口に含めば、口に広がる控えめな甘み。 一本平らげても異変がないところをみると今日の毒は遅効性とみた。
毒の効果が切れるまで、毎回傍で見守っている名前にこの時間だけでも独り占めできると思ってしまうきっと俺は愚か者だろう。
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