「さて、今日は七夕なわけだが」
中庭には大きな笹が飾られている。 用具委員会が準備したものらしい。 大方、食満先輩が一年生の後輩達に頼まれてはりきって準備したんじゃないかなぁと思っている。
何故か、2年生の友達の前で正座させられている私はそろそろ足がしびれてきたしいい加減願い事を書いた短冊を飾りたいしでわけもわからずこんな所に座っている自分がよくわからない。
何が言いたいのみんな。
「お前、なんて書いた?」
「『潮江先輩の隈がとれるようにもっと頑張ります』?」
言いながら、ほら、と書いた短冊をみんなに見せてみる。 そんなに恥ずかしいことは書いてないよ。 何でそんなことを聞くのかわからないけどそれで解放されるならいくらでも見せる。
何故かみんなほっとしたような表情を浮かべていてますますわからなくなってくる。 なんなんだろう、なにかあったのかな?
「おい、よかったなまだマトモな内容だぞ…!」
「これで『潮江先輩と恋仲になれますように』とかだったら俺死ぬ気で名前をとめる所だった…!」
「何が怖いって笑えないところが怖いな…!」
ひそひそとした会話はよく聞こえなかった。 しろちゃんだけが、 『そんなに心配することじゃないよ』というのが聞こえた。
「つーか、名前。それ別に願い事じゃないだろ」
「むしろただの抱負じゃねえか?」
「えー?」
言われた言葉が不満で、眉をひそめた。 だってさあ、そんなこと言ったって。
「仕事さぼって怒られた織姫と彦星に、これお願いしても何のご利益もなさそうじゃない?」
だから、頑張りますって。 言葉にしたり文字にしたりすることでやる気って出るし。
明日からまた次の予算会議に向けての対策とか前年度の功績だとか活動内容だとかそういうのもまとめないと。
潮江先輩は言葉が足りなさ過ぎるからああやって派手に戦うことになるんだと思う。 それもまあいいところなんだけど、潮江先輩が誤解されるのは悲しい。
本当は優しい先輩なのに。 だから、上手く伝えられなくても一目でわかるように各委員会ごとに資料として配布しようと思って。
「だから、行ってきてもいーい?」
なんだかそれぞれ微妙な顔をしていました。 …本当になんでなんだろう。 因みにしろちゃんだけは、先輩想いだねって笑ってくれた。 今年の予算会議も頑張るぞー。 早々に戦線離脱しそうだから、出来ることを探していかないと。
「……だ、そうだぞ文次郎」
「………」
「そもそもあいつらも何故廊下で座り込んでそんな話をはじめたのやら」
「………」
「…お前の人生に一度あるかないかの後輩からの好意的な言葉なんだぞ。 黙っていないで少しくらい何か言え、文次郎」
「………」
「…ん?もしかして、お前照れて」
「うるせえな!!こっち見んな!!」
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