私は自慢じゃないけれど、実技が駄目だ。

『苦手だ』じゃなくて『駄目だ』という辺りその実力は適当に推し量ってもらえると嬉しい。

因みに同じクラスの七松相手に組み手をして、
『はじめ!』と言われた瞬間に終わったことがある。
私の人生の中でもっとも短い戦いだった。

そもそも体力もあまりよろしくない。

一応最後まで授業についていけるけれど、終わってから暫くは動けない。

たまに同じクラスの優しい中在家が私の首根っこを掴んで長屋まで運んでくれたこともある。

嬉しかったけれど、足を酷くすりむいた。

かといって頭脳労働専門なのか、ときかれれば……やっぱりそうではなく。

ちまちまとした嫌がらせの類や、地味な精神攻撃なんかは得意だけど勝利へと導くための作戦や試験で高得点をとれる脳みそは持ち合わせていないのだ。



「…それでなんで六年まで落第もせずにこれたんですか」

「いやいや不思議だねえ。ところでいつの間に私の隣にいたんだ鉢屋」

「それすらも気づいてなかったんですか。学園側に何か賄賂でも渡していたんじゃないでしょうね」

「残念、そんな財力もないわけで」

「何なんですかホントに」

「さて」



学園長からお使いを頼まれて帰る途中、気がついたら隣に鉢屋がいたというミラクルにも動じずそのままのんびりと歩きながら学園へと向かう。

この道は真横が岩場になっていてちょっと怖い。

けれど普段どおりの道を通るならば、一番近道なのもこの道だ。

……この道、なんだけど。



「うーん…?」

「何してるんですか先輩、日が暮れます」

「いやあ、なんかこう…」

「何ですか?」

「嫌だ」

「は?」

「この道なんか嫌だ、通りたくない。
鉢屋私今日はこっちから帰る気分だから行こう」

「なんですかそれ我侭言わないで下さい。って問答無用で何引っ張ってるんですかちょっと」

「後で団子奢ってやるからさー」



言いながら少しだけ遠回りになる道を選んだ。

鉢屋はぶつぶつと文句を言いながらも、私が掴んだ腕を放そうとしないのに諦めたのかこの道の途中にある茶店でなんの団子を食べるか悩んでいる。

あの茶店は個人的に三食団子がお勧めだ。
しかし鉢屋は餡団子を食べるという。
素直じゃないやつめ、あとで一本隙をみて口の中に突っ込んでやる。





「ただいまー」


学園が見えたころ、門の前に五年生が勢ぞろい。

え、なにこれお出迎え?


私は鉢屋に視線を送れば鉢屋も不思議そうな顔でそっちを見ていた。

足をすすめればこっちに気づいたようで、慌てた様子で走りよってきた。



「三郎!名前先輩!!」

「無事ですか!?怪我してないですか!?」

「え、何事?」



私の両側にはい組コンビがはりつき、鉢屋にはろ組の二人がその襟元を掴んでがくがくと揺さぶっていた。
ちょ、鉢屋死ぬぞ。
両側にべったりと張り付いたい組コンビに声をかければ二人揃って半泣きで私を見上げてきた。

…涙目の上目遣いって破壊力凄いよな。




「学園への帰り道でいつも通るあの道が」

「ああ、あの岩山沿いの」

「岩が落ちてきて誰かが巻き込まれた、ってきいて私達いてもたってもいられなくなって…!」

「え」



あちゃあ、といわんばかりに遠い目をする私に驚いたような表情でばっと私を見る鉢屋。

不破と竹谷は鉢屋に怪我がないことに満足したらしく、大人しく鉢屋を解放している。

私はといえばまだ拘束されたままなんだけど。

いやあ、これでこの2人の性別が違ってたらもっと違った感触だったのに惜しいなあ。

懐かれるのはうれしいけど、腕に当たる胸板はちょっと寂しい。



「せ、先輩まさかそれを知って…?」

「いや、単に嫌な感じがしたから行きたくなかっただけ」



言って目が落ちるんじゃないかというくらい目を見開いている鉢屋を見て私は笑った。



「鉢屋、お前さっきなんで私が六年生までここにいられたかって話してたよな?」

「…しました、けど」

「私ねえ、何故か不思議と敵と鉢合わせないんだよ」

「……は?」

「なんとなくふらーっと横道にそれたり、寄り道したりしてたらいつの間にか普通に帰ってこれるんだ」



本当に不思議なことなんだけどねえ。

あ、これお土産の私お勧めの三食団子。
鉢屋は餡団子の方が美味いって聞かないんだけど、どっちのほうが美味いと思う?
ちょっと食べ比べてみてよ。

そう言いながら団子を渡せば、何故か微妙な目で全員から見られた。

え、なんで?



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名前には危険回避能力が備わっています。
実技がだめだめでもなんとなく進級できてた理由。



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