「失礼、よう起きてるか鉢屋ー」

「夜中に何しに来てんですか名前先輩雷蔵に夜這いですか遺言くらいは聞いて差し上げます」

「いやこんな夜分にたずねてきた私が悪いが、何も一息で言うことはないだろう」



しかも不破は寝てるし。

天井から颯爽と、なんてかっこいいまるで忍者のような(いや忍者のたまごだけど)登場ではなく普通に5年長屋の戸を開けてずかずかと入ってきた私をにこやかに出迎えてくれた鉢屋。

手厚い出迎えご苦労だけど、とりあえずその手裏剣はしまっとけ。

不破も起きろ、うーんむにゃむにゃもう食べられない、ってそんなベタな寝言初めて聞いたぞ。



「たいした用事ではないのなら、明日にして下さい」

「たいした用事じゃないけど明日じゃ駄目だから今来た」

「……なんでもっと早い段階で来ないんですか」

「それはほら、私にも色々と事情があるから」



普段にやにやと、雷蔵の後をついてまわるか誰かに悪戯をするかに全力を注いでいる鉢屋が私と話すときだけこうして嫌そうな顔をするのに内心でちょっとだけしょんぼりしながらも当初の目的を果たすために鉢屋に荷物を全部押し付けた。



「…なんですかこれ」

「それお前にやるよ」

「………何を企んでますか?」

「企んでないさ、今日はお前の日だからな」



誰かがふと思い出したかのように、
『今日は8月8日で、鉢屋の日だな!』といった言葉にじゃあこれは何かしないといけないな、と1人で結論を出して授業が終わってから街に下りて買ってきたものだ。

私の言葉に怪訝そうな顔をしたまま、渡した荷物を爆発物か何かのようにしげしげと眺めているので適当に説明だけして帰ろうと思った。

気に入らなくて目の前で捨てられると流石に泣く。



「正直な話、私お前に何かやる時お菓子くらいしかあげていないから何をあげていいのかさっぱりだった」

「ええ、お菓子だったらやたらいろんな種類貰いましたよ」



子供の餌付けじゃあるまいし、と言いながらもずり落ちそうになった荷物を雑に扱うこともなく大切そうに抱えなおす辺り、どうやら嫌がられてはいないらしい。



「因みに中身は着物だよ」

「着物?」

「そう、不破とおそろいじゃないやつ」

「……なんでまた」



なんでと言われても。

じっと探るように見つめてくる鉢屋に、『なんとなくでした』といったら怒られるかな、…怒るだろうなぁ。

少しだけ考えて、よし、言い逃げようと思いついたことをそのまま口に出した。



「それ、鉢屋に似合うと思ったから買った。
たまに着てくれたら私が鉢屋をきちんと見分けられる、という特典がつくぞ」



じゃあ、そういうことで。

言ってそのまま長屋を後にした。
最後にちらりと見た鉢屋は、珍しく間抜けな顔をしていた。

押し付けたような形になってしまったけれど、あの滅多に見ることの出来ない表情が見られただけ、まあいいかなーなんて気楽に考えて自室に戻った。






後日わざわざ不破を引っ張ってきて
『今日これから私達新しく出来た茶屋に行くんですよ、うらやましいでしょう』
なんて自慢しに来た。

普通に『おー土産よろしくなー』なんてへらへらしながら返して、何故か憮然とした表情で街へと降りてく鉢屋たちが見えなくなってからようやく自分があげた着物を着ていたことに気づいた。

あげたことに満足して、すっかり忘れてた。

まじごめん鉢屋。

おそらく貴重なデレだったんだろうについスルーしてた。


それ以降休日になるとあげた服を着込んでは、わざわざ話しかけてくる鉢屋は中々に可愛かった。
微笑ましくなって飴をあげたが、子ども扱いするなと懐の飴を全部ぶんどった挙句怒られた。

理不尽だ。

年頃の少年は難しいなあ。



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