「………何してるんですか」

「自分の限界に挑戦している」



学園中がはろうぃんで騒いでいる。
自分達も後輩達に強請られて菓子をあげたけれど、ふとこういう行事には人一倍張り切りそうな名前先輩の姿が見えないことに気づいた。
はじめはどこかに隠れているか、それとも忙しいのかと話していたけれどあまりに姿を見ないので五年生のいつものメンバーで探し出そうという事になったのだ。

そして、食堂の中をのぞいて目の前に広がった光景に思わず絶句。
………なんだこれ。

机の上に並んでいる手のひらサイズの南瓜型の入れ物の中には、飴やら焼き菓子やらが一口サイズになって細々と収められている。
どこから仕入れたんだこの入れ物。
しげしげと手にとって眺めていれば、



「ああ、それ食満に言ってみたら嬉々として作ってくれた」

「…あー子供とか好きそうですもんねあの人」

「そうそう」



こちらを一瞥もしないくせに的確に行動を当てられて驚くものの、それよりも今現在作成中らしい『それ』についてどう問いかけるかを考えるのに必死だった。
どんどん出来上がっていくそれを呆然と見つめれば、背後に見知った気配が増えた。




「三郎、名前先輩見つかった?」

「おほー!ほらやっぱり俺の予想通りここにいただろ?」

「雷蔵、ハチ…」



ひょい、と顔をのぞかせた見知った姿に振り返りすっと名前先輩の方を指差して見せた。
二人は指差した方向へとそのまま視線を移し、そして固まった。
その気持ちわかる、わかるぞ二人とも。





「…あの、名前先輩それはなんでしょう…?」

「ん?これ?忍術学園」

「……いや、そりゃあ見たらわかりますが」

「そうか?まだ途中だしどうかと思ってさ」

「…あのそれ、お菓子…ですか…?」





おずおずと、名前先輩の手元にある小さな忍術学園。
…いやなんかそういうと変な感じだな。
それでもそうとしかいえないものが机の三分の一ほどを占領してどどんと鎮座している。

近くの更には焼き菓子が。
南蛮のびすこいとを細かく焼いたものが山になって皿の上に積まれている。
微妙な焼き加減や、中に何かを混ぜているのか若干色の違う細かいそれをてきぱきと屋根の部分に重ねている。




「そうそう。
はじめは簡単にお菓子を作ってお前らに会いに行こうかと思ってたんだけどなーんかいつの間にかこんなことになってて…不思議不思議」




もう飾り付けの段階に入っているらしい名前先輩の手つきは非常に細やかで、まるで長年菓子を作ってきた職人のようだった。

あれ…?忍者…?

思わず首を傾げそうになりながらも、滅多にお目にかかれない職人芸を目の当たりにして『とりっくおあとりーと』なんて言える筈が無い。
そもそもはじめから自分達にくれるつもりでこんなことになってしまったんだろう。





「ちなみにその小さいのは他の下級生用だから食べるなよー」

「食べませんって、しかしよく出来てますよねホント」

「…でもこれ敵の手に渡ったらとんでもないことですよね。
学園内の構造が一目でわかるようになってしまいますし」

「あー、だから出来上がったらそのままの流れで証拠隠滅。
五人もいたら跡形も無くなくなるだろー」

「あっ勘ちゃん先輩ここだった!」

「ホント!?せんぱーい、とりっくおあとりー…って何それ凄い!!」





喜色満面の笑みで食堂に入ってきた尾浜は、駆け寄ってきたその足を直前で急ブレーキをかける。
後からゆっくりと歩いてきた久々知も『おー』と感嘆の声をあげながらひょいと肩越しにのぞいてきた。

暫く眺めてから、ふと久々知が何か言いたげに名前先輩の方を見る。





「名前先輩、」

「ん、ほれ」

「これは…?」

「豆腐入りのびすこいと。
流石に今日は豆腐そのままじゃなくて一手間加えてみた」

「流石名前先輩、愛してます」

「はっはっは、豆腐を間に挟んでなければもっと嬉しかったんだけどなぁー」




ちょこちょこと、細かい部分を飾り付けていく名前先輩。
『よし』、と満足そうに一つ頷いてから仕上げとばかりに校庭にあたる部分に何かを並べていく。
見覚えのある小さい飾りに首を傾げれば、一番初めに気づいたらしい尾浜が声をあげた。




「あー!これもしかして俺達!?」

「え?あ、本当だ」

「おう、砂糖菓子で作ってみた。
結構良くできてるだろ?」

「…名前先輩もう本当忍者辞めたらどうですか…」

「歌って踊れて、菓子も作れる忍者が一人くらいいても良いだろう」

「歌って踊れるんですか名前先輩」

「いや、そこはながして欲しかった」




良い仕事をした、と言わんばかりの名前先輩に思わず鉢屋は本気で勧めた。
これだけの腕があれば忍者でなくても、がっつり稼げるだろうに。
日ごろのこの先輩の忍術の腕を知っているだけに微妙な心境にさせられた。

そんな鉢屋の心中を知ってか知らずか、にこにこと笑いながら言う。





「ほらお前ら、早く食べないと悪戯するぞ」




かなり緻密に作り上げられた、お菓子の家…もといお菓子の学園。
これを崩すのにはちょっと勇気がいる。
なんてもったいない。

久々知は先に一人で豆腐入りのびすこいとを食べているし、不破は悩みだし、竹谷はとりあえず食べてもあまり形が崩れないような飾りの部分から食べている。
尾浜は『いいですよー』なんて笑いながら名前先輩に突っ込んでいき、いつものようにじゃれあっている。


…私がおかしいのか!?
躊躇している私が間違っているのか!?


珍しく不破のように悩み始めた鉢屋を見て遠巻きから名前先輩がにやにやと笑っている。

いつもよりも早く悩むことを止めたらしい不破が、砂糖菓子の自分を何の躊躇もせず頭の部分を手でもいで食べた。


ちょ、雷蔵それ私の形の砂糖菓子。


衝撃を受けたように呟く鉢屋の声に堪えきれず噴出した。












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