学園内に蔓延している、橙色。
紫や黒なんかも目立つ。

事の発端になった人間は呟く。



「…あっれ?おかしいなー。何がどうなってこうなった」



その中を呆然とした様子で佇む男が一人。
自分の一言がこの学園内の様子を作り上げてしまったというのならば、ああ自分は何と言う情報発信力なのだろうか。
流行の先端も先端だ。

…いや、単純に面白いことやらお祭り騒ぎやらが好きなだけなんだろうけれど。

それはつい昨日のことだったように思う。







「あ、なー長次君。
長次君って南蛮語読めたっけ?」



暇つぶしに図書室で借りた本を、授業の自習時間に読む。
少し離れた所で七松と話していた(と思う、長次君は一言も喋ってなかったように思うけど)らしい長次君が私の言葉に振り返った。

長次君に見えるようにして、本を広げて見せれば例の笑顔で笑われた。
本を広げるな、痛むだろう。
多分そんな所なんだろう。
私は慌てて机へと戻して、長次君がこちらに移動してくるのを待った。
なんだなんだ、とわくわくした顔で何故か七松も一緒だ。




「これ!
なんか日付は多分今の時期と重なってると思うんだけど」



だよね?
と、伺うようにしてちらっと長次君を見れば一つ頷いた。
合っているらしい、良かった。
内心で安堵しつつもそ知らぬ顔をして話を続ける。




「なんなのこれ。
何かの行事?みたいな感じに見えるんだけど」

「おお?なんだこれ!
なんか変な妖の一種か!?」

「…………はろうぃん」

「はろ…?」

「なんだそれ!聞いたこと無い響きだな」




長次君は少し考えてから、そう答えた。
一度では聞き取れず首を傾げる私と、珍しい響きの言葉に七松が身を乗り出した。
ちょ、近い近い。

長次君は七松の方をちょっとだけ見てからまた口を開いた。
これだけ近ければ、長次君の声も聞き取りやすくていいなあ。




「……海の向こうの、遠い国ではこの日に死者の霊や妖の類が現れると信じられているらしい」

「なるほど!日本で言う盆か!」

「そうなの?」

「…………後は、それらから身を守るために仮装をし、子供達は近所の家などをまわり菓子を貰い歩く、と」

「へー」

「菓子!」




なるほど、国が違えば文化も違うというのはこのことか。

挿絵の謎が解けた私は、長次君に礼を言いまた本の続きを読み始めた。
そこで、えらく輝いた顔をしている七松に気づいていればもう少し早くこんな自体を想定することが出来ただろう。



かくして、噂は広がり、いつもの如く学園長先生が興味を持ち。
その日の夕方には全校生徒を集めて
『これから一ヶ月間は "はろうぃん" をすることにしよう!』
とわくわくしながら宣言していた。

あまりの展開の速さについていけない私をよそに、既に情報は知れ渡っていたらしい学園の生徒たちはテンション高く盛り上がりを見せた。

…まあ、うん。
秋の行事って少ないしね。
私も思いつくの月見くらいだし。

何だかんだで私もこのお祭り騒ぎな空気に踊らされて、ちょっとうきうきしているのだ。



そうして、はろうぃん月間と銘打たれた期間を迎えるのである。











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