今日も委員会を終え、自主練をこなし、風呂にも入りようやく一息つけると長屋の自室の襖を開けて見えたその姿に食満は今日一日の疲れがその一瞬だけでどっと凝縮されたような感覚に陥った。



「……何やってんだお前」

「食満が構ってくれないので、これは何かのネタフリかなと思って布団に忍び込んでみましたよ!」



きゃあ、恥ずかしい!

そういいながら両手で顔を隠すそのしぐさは、百歩譲って可愛らしいといっても良いものだったが残念ながら甘えたようなその声はどう頑張っても少年の声であったし、顔を両手で隠したその指の間からちらちらこちらを上目遣いで見上げてくるその姿に食満はぐっとこみ上げてくるものを感じた。

その感情は、名づけるならば、そう、



「……お前、マジぶん殴るぞ」



苛立ちである。



自分でも正直びっくりするくらい低い声が出た。

ついたてをはさんで、今日もまた薬を煎じている同室の善法寺伊作はその声にびくりと反応した後何かを倒す音がした。

何の音だったかは聞かずとも想像できる。

諦めろ、伊作。

こいつを部屋に入れたお前にも罪はある。

対して、めったに聴くことのない声で凄まれた名前は言われた言葉を理解できませんといったように2、3度ぱちぱちと目を瞬かせて首をかしげる。
物凄くわざとらしい。



「…ごめんね、食満」

「…い、いや、わかってもらえればそれでいい」



珍しくも殊勝に謝ってきた名前に一瞬反応が遅れたものの気を取り直して言葉を返した。

そうだ、素直に謝ってくれるのならば俺もなにも鬼じゃない。

友人の可愛い悪戯くらい笑って許そうじゃないか。
そう思い口を開こうとしたが、先に言葉を発したのは名前の方だった。



「そうだよね、食満はもっとおしとやかな方が好きなんだよね。
ロリ・ショタコンっぽいしね。やっぱり布団の中で待ってるよりも布団の上で正座で三つ指ついて頬を染めながら『不束者ですが…』とか言われた方がぐっとくるよね、ごめんな、俺食満のこと全然わかってなかった…!」



だからもう一回、入るところからやり直してもらっていい?

いそいそと布団から這い出て、律儀にも一通り綺麗に整えてから嫌にきっちりと姿勢正しく正座してスタンバイする。

さっきまで握っていた木槌が今ここにあったならば。
もしくは、さっきまで鍛錬に使っていた八方手裏剣が今手元にあったならば。

そろそろ殺気すらにじみ出る俺をみて、やけに嬉しそうな顔で笑いながら



「食満…昼間構えなかった分、朝まで俺を構い倒しても、いいんだよ…?」



そう言ってのけた名前を心行くまで一思いにぶん殴ってもきっと俺は許されるだろう。



次の日、俺は自ら仕事を増やしてしまったことに物凄く後悔することになる。



(どこからともなく、『けまとめー後で俺と遊べー』と聞こえてきた方向へとなんの躊躇いもなく手に触れた硬いものを投げつけた。)



道具は大切に。




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