「レギュラスくんはさ、どっか行っちゃいそうだよね」
目の前の先輩がはぁと溜め息を吐いたのですかさず吸い込んだ。いつもなら幸せをとらないでと怒るのに今日はそんなこと気にしないとばかりに二度目の溜め息を吐く。先輩、と呼んでみるもこっちを向いた顔は憂いを含んだような笑顔だった。こんなにも静かだとなんだかこっちが調子狂うじゃないか。
「僕はどこにも行きません」
「ううん、行くよ。誰にも言わずにどこかへ行っちゃう」
「勝手に決め付けないでください」
ぴしゃりと言い放つと憂い顔は少しだけ泣きそうに眉を下げた。ああもう。どうしてこの人は人の話を聞かないのだろうか。卒業が近くて繊細になっているのだとしても、そこまで言われるのはさすがに納得できない。ぎゅうと先輩の手を掴んで真っすぐ目を合わせる。先輩の目は潤んでいた。
「ちゃんと手紙は書くし、長期休みになったら遊びに行きます。それでも不安なら会いに来てもらっても結構です。それで僕が卒業したら」
「卒業、したら?」
「…結婚しましょう」
真ん丸に見開いた先輩の目から涙が一粒だけ零れた。途端に恥ずかしくなって俯くと、手を握り返される感覚がしたので渋々顔を上げると、そこには涙目だが笑顔の先輩がいた。このあたたかい笑顔に惚れたんだ。何度救われて、何度自分の物にしたいと思ったことか。
「ごめんねレギュラスくん」
「大丈夫ですよ」
「レギュラスくん、」
「はい」
「好きです、大好き」
「僕も、先輩のこと」
愛してます。
愛の先端(120326/ハリーポッター)