「なまえは僕の妹で人形で奴隷で家畜で女神なんだよ」

大好きな兄は、私が物心つく前からそう語りかけていた。幼い私を抱きしめながら、何度も何度も繰り返されるその言葉は紛れも無い愛の呪文であった。赦されない愛の呪文。昔から聞き慣れたその呪文は、まるで耳の奥に兄が住んでいるかのように耳を澄ませばいつでも聞こえてきた。
愛してると言われれば、私もよお兄ちゃんと答えて、キスをされればそれに合わせるように舌を絡めた。ゼラ、と呼ばれる兄を見て一度呼んでみたことがある。その時の兄は今までに無いくらい激昂し、私の頬を叩いた。私は痛む頬を抑え、兄妹でいなくてはいけないのだと思った。罪でなくてはいけなかったことを知ったのだ。

「なまえ、僕の愛しいなまえ」

「なあにお兄ちゃん」

「君は僕のものだろうね」

「そうよお兄ちゃん。なまえはお兄ちゃんの妹で人形で奴隷で家畜で、お兄ちゃんの血と肉なの。お兄ちゃんの、お兄ちゃんだけのなまえよ」

兄は満足したように頷いた。その恍惚ともとれる表情は私の奥深くに埋まっているなにかを刺激して止まない。そこから血が流れ出る感覚がする。赤黒い、兄の血。私は、女神なんかよりも甘美で残酷な兄の血と肉なのだ。おにいちゃあん。鳴くように呼ぶと、私たちの境界線は消え失せる。







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