家族というものを知らなかった私に与えられたお日さま園という居場所はとても心地好くて、すぐに大切な家になった。お日さま園のみんなに受け入れられて知ったのは、家族というのは優しくて温かくて、それゆえに少しだけむず痒い存在だということ。無条件で私を愛してくれる親はいないけれど、みんな家族だった。それに気付いて泣いた夜、私は家族が欲しかったんだと実感した。
晴矢は私たちの中で一番短気だった。けれど私たちの誰よりも面倒見が良くて、私はたまに間違ってお母さんと呼んでしまうときがある。そんなとき晴矢はばーかと笑って許してくれるのだった。私も晴矢も満更ではなかったのだ。晴矢も私を妹のように、ときには娘のように扱った。そんな優しい晴矢が私は大好きだった。

大好きだったと言っても、詰まるところ家族愛の話であって恋愛的要素はどこにもなかった。あの大きくて優しい手に撫でてもらいたいとは思っても、抱いてほしいとは思わない。少なくとも私は家族として晴矢が好きだし、晴矢もそうなんだと思っていた。晴矢に押し倒される今までは。


「は、はるや…?どうしたの?」

「好きだ、なまえ」

「やだ、やだよ晴矢。やめてっ」

逃げ出そうにも腹に晴矢が跨がっているから逃げられない。迫りくる晴矢の肩を力いっぱい押し、拒絶すると、真っ赤だった晴矢の顔はたちまち怒ったような顔になった。その顔はどことなく泣きそうに見えなくもなくて、私は困惑してしまう。泣きたいのは私だ。怖かったのに。初めて見た男の晴矢はすごく怖かった。なのになんで晴矢が泣きそうなのか私には分からない。

「ねえ、晴矢、」

「お前は、俺のこと好きじゃねーのかよ!」

「わ、たし?」

「……」

「私は、…私は、晴矢と、家族になりたかったよ」
晴矢の目から涙がぽろりと落ちた。次々に落ちてくるから、どうすればいいか分からなくて慌てていると私の目からも涙がこぼれた。ぼろぼろぼろ。涙は止まらない。ああ、そうか晴矢は私を女として好きだったのか。私を家族としては見ていなかったのか。私たちの好きの種類は交わることのない全然別物だったのだ。涙は止まるどころか、より一層私の目を潤して、滝のように流れ出した。うわーん、うわああん。たまらず泣き声も出てしまった。悲しい。私が家族だと自惚れていただけで、けっきょく私たちが家族であったことなど一度もなかったのだ。








線上の壊死//110829

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