残影に縋りつくことすら
「とゆーことで、君らのお世話役になった士官候補生二年のみょうじなまえでっす。部隊は戦闘部隊に所属してて、どちらかというとナイフが好きでーす。別に銃が嫌いとかではないけど、目標定めんのが苦手っす。なにか質問はありますかー」
「君はジャック・ザ・リッパーなわけ?」
「はいそこ、先輩には敬語使いなさい。というか初対面で切り裂き魔呼ばわりしない」
「でもよぉ、銃より刃物好きなんてそーとーの変態だぜ?」
「人の話を聞け。あんたら二人のせいで早くも後輩の世話とか嫌になったよ」
「先輩らしくないなまえが悪いよね、エスカバ」
「ミストレに同じく」
「ち、ちくしょう…バダップ君は先輩って呼んでくれるよね?」
「これから世話になる、なまえ」
「こんのクソガキどもおおお」
「士官候補生二年、戦闘部隊所属のみょうじなまえは戦死した」
ヒビキ提督の声はやけに冷たく響いた。今伝えられた言葉はあまりにも事務的で、そこには特になんの感情も含まれていない。それもそうだろう。この王牙学園で死者がでることは珍しくない。
しかしヒビキ提督の言葉を聞かされた三人の男子生徒は、それを信じることはできなかった。みょうじなまえに限って戦死だなんて。王牙学園きっての天才と呼ばれる三人は表情には出さないものの、同じことを考えていた。
「任務に、失敗したんですか」
「ああ。難しい任務じゃなかった。みょうじは浅はかな行動で自らを殺したと言ってもいいだろう」
「浅はかなこと…とは?」
「自分一人で敵を迎え撃とうとしたらしい」
「……そうですか」
「お前たちを呼んだのは他でもない、みょうじの遺書を渡すためだ」
三人に手渡された遺書はそれぞれ綺麗な文字で宛名が記されている。ヒビキ提督に敬礼し、部屋を出た三人は一言も言葉を交わすことなく自室へと足を進めた。あんなに強かったみょうじなまえが死ぬなんて、先ほどと同じ疑問が未だに三人の頭をよぎっている。