∴兵部京介
「僕のこどもがほしいなんて狂気の沙汰だね」
京介は、憎しみを含んだ声で言い捨てた。その憎しみはなんとなく私に向けられていないような気がして、安心したような寂しいような気がした。京介はいつだって私なんか見ないのだ。
「僕らのこどもなんて誰も幸せになんてできやしないんだ。何せ狂気の中から生まれる怪物なんだから」
「京介、」
「僕は、もう、なにもほしくない」
嘘でもいいから冗談だよ、と言ってあげれればよかったのに、私はそれさえもできないほど一人になるのが怖かった。京介の温度を感じているはずなのに、私はシーツの波にさらわれていくようだった。息が上手にできない。京介も同じことを考えているだろう。私も京介も、いつだって一人が怖くて怯えている小さなこどもだったのだ。
(こどもがうむこども)