ジュダル+紅玉
「ジュダルちゃん、寝てるの?」
嫌なことがあった。アブマド王との結婚が取りやめになって以来、煌帝国内での風当たりはひどい。そもそも、私は元からあまりいい目で見られていなかった。いくら父が現王だからといって、武人を目指す女など邪魔でしかないのだ。それでも耐えてきた。どうしても駄目なときはジュダルちゃんの部屋へ行くのだが、今日に限って返事がない。この時間は必ずいるのに。一応ノックしてから部屋へ入ると、奥のベットでジュダルちゃんが寝ていた。
側へ寄ってみるも起きる気配はなく、ピクリとも動かなかった。ジュダルちゃんの寝顔は驚くほど穏やかだった。ギリギリまで近づかないと息をしているのか分からないくらい死んだように眠る。いつものような、涎でも垂らしているマヌケ面だったらよかったのに。ふと、あのマギのボウヤにやられたときのぐったりしたジュダルちゃんを思い出して、言い知れぬ不安が少しだけ襲う。もしかして、いや、そんなことはない、はず。朝になったら起きるに決まっている。その左胸に触れれば生きてることくらいすぐ分かるというのに、触れられない。もし、もしジュダルちゃんがいなくなったら私はどうすればいい?どうやって生きていけばいいの?置いていかないで。一人にしないで。先ほどの小さな不安が何倍にも膨れ上がっているのが分かる。こわい、こわい、こわい。涙が頬を伝ったその瞬間、ジュダルちゃんは小さく呻いて寝返りを打った。
「ジュダルちゃん、」
ああ、よかった。生きていた。
覚醒を拒む距離にて