(≠神子)
できるだけ力を込めて知盛の胸板を押してみるが、細いように見えても鍛え上げられただけあってびくともしなかった。すると頭上からククッという笑い声が聞こえた。

「ほら…逃げてみせろよ」

どうしてこんなことになったのだろうかと後悔した。確かに私は知盛を好きになっていっしょにいたいと思ったが、本当に叶っていいわけがない。たとえ今が幸せだったとしても私が知盛を見殺しにしたことに変わりはないのだ。望美といくつもの時空を超えて、平知盛という武士が死ななかったことはなかった。それでも助けたいと思ったから何度も何度もやり直した。何度目か分からなくなったころ、時空跳躍に失敗した。私は初めて来たときよりもずっと前にきてしまったのだ。将臣がいないところを見ると四年以上前であることは間違いないだろう。
そして何の運命の悪戯か、私と知盛はまたも出会ってしまった。最初は嬉しかった。いつだって自ら死を選んで死んでいく知盛が生きていることがなによりも嬉しくて、今まで見殺しにしてきた私も救われた気分だった。けれどそんな幸せな毎日も知盛と心を通わせた日に終わった。気付いてしまったのだ。あんなにも見殺しにしてきた私がどうして知盛と幸せになれるんだろうかと。いくら今がよくても私が犯してきた罪が清算されるわけではないのだ。このまま知盛と幸せに暮らしていこうなんておこがましい考えだった。遠い昔、弁慶さんが言っていたのを思い出す。罪があれば罰がある。罰は受けるためにあるのだ、と。

「だめ、だめなの」

「どうかしたのか…?」

「私は、知盛と幸せになっちゃだめなの」

「そんなこと、誰が決めた」

「全部罰だったんだよ」

知盛は理解不能だと言わんばかりの顔をした。それもそうだろう。どれもこれも知盛の知る世界ではないのだから。もしかしたらこの時空に望美たちは来ないのかもしれない。そうだとしても知盛はまた戦で死んでいくのだろう。知盛の胸に縋り付くことさえできない私はただただ涙を流すことしかできないのだ。




無力な私は、自分を守る術も、大切な人を護る術も、なにも知らないまま、すべてを失ったのです









(私にも運命を変える力があればよかったのにね)
title by 亡霊
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