★恋闇−再録−(サンプル)


P266 / ¥1400 / R18 / A5 / オンデマ / 2015.12発行

屯所パロの沖田×千鶴。
「まどろんで恋闇」「わずらって恋闇」「とらわれて恋闇」の再録本。「みたされて恋闇」を書き下ろし。
千鶴への恋心に気づいた総司が猛アタックを開始するも、鈍い千鶴には全く響かない。
隊士たちに生温かく見守られながら、総司が恋を成就させていく話。
※文字サンプルは一部改変したり、ウェブでも読みやすいように改行を増やしています※





★画像サンプルはお手数ですがこちら(Pixiv)をご覧ください。



クシュンとくしゃみをしたら、彼女が大慌てで駆け寄ってきた。
稽古後に汗をちゃんと拭かないからだと生意気にも小言を言ってくるものだから、総司はムッとしながら差し出された手拭いを掴み取った。
それを千鶴の首にぐるりと回して、軽く交差させてキュッと引っ張る。
途端に千鶴は目を見開いて、自分の首と手拭いの間に手を滑り込ませて抵抗した。

「なっ、なにするんですか、沖田さん!」
「首を絞めようと思って」

ケロリと言ってのける総司に千鶴は唖然としたらしく、口をぱくぱくと開閉させている。
そりゃあそうだろう、そうなる理由が彼女には思い当たらない。

よしてくださいと言いながら、千鶴は手拭いから逃れ、総司との間に歩幅一歩分の距離を開けた。
その距離に総司は再びムッとする。
近づくなら近づく、逃げるなら逃げるとはっきりすればいいのに。
しかし千鶴はそこから動かず、総司を見る。
真っ直ぐに瞳を合わせることはできないらしく、総司の首元や肩のあたりを視線が泳いでいた。
もしかして汗を拭うのを待っているのか、と思って総司は適当に額を拭った。
されど千鶴は何も言ってきやしないし、そこから動かない。
よぉく見ると手と手をこまねいてモジモジしている。
言いたいことがあるのならハッキリ言えばいいのに、と総司はうんざりしながら口を開く。

「……何?」
「えっと……あの、…………お身体はもう大丈夫ですか?」

その言葉を聞いて総司は眉を顰めた、一体何度目だと。
先月、新選組にとって大きな捕り物があった。
場所は池田屋。
その際の戦いで総司は負傷したのだが、千鶴はそれを自分のせいだと思い込んで、やたらとその質問を繰り返していた。
君のせいじゃない、気にするな、もう平気、と何度言葉を並べてみても、すぐに遠慮がちな瞳で傷の心配をする。
ここはあれなのか。おまえのせいだ、気にしろ、労われ、責任とって看病しろ――とでも言うほうが正解なのか。
いや、そんなことを言ったなら千鶴は本当に責任を感じて今以上に気に病む。
どっちみち煩わしいことに変わりはない。

総司は心配されるのが嫌いだ。
一人前扱いをしてもらえないような気がするから。
ましてこんな子供から不安そうな瞳を向けられるのは、心外以外のなんでもない。
だけどそこでふと考える。
なぜ千鶴が総司を心配するのか。
彼女には良い印象を与えていない。
からかって脅して苛めて困らせて、出会った夜から怖がらせてばかりだ。
そりゃあ巡察に同行させてあげたり話し相手になってあげたり普通に接することもあるけれど、その程度では帳消しされないから、彼女は総司を前にすると瞳を揺らすのだ。

「心配なのは僕? それとも自分の立場?」
「え?」
「場をわきまえず乱入して僕を負傷においやったなんて言われたら、君の立場なんてないもんね」

千鶴がこうやって何度も苦手な総司のところへ伺いにくるのは、つまりそういうことだ。
総司は結論付けたことを口角を上げながら言う。
自分で言っておいて、なぜか心がムカムカするのを感じた。

「……っ、違います、そんなこと思っていません。ただ心配で」

千鶴が否定する。
首と両手を左右にふるふると振って。
男の子みたいに結ってある髪がいっしょに揺れた。
総司は思わずそれを掴みたくなる衝動に駆られるが、今掴んでしまったらきっと、力任せに引っ張って痛い思いをさせてたくなるだけだ。
だからその衝動を抑え込んだ。
男装しているとはいえ、女の子にそんなことしたら流石に可哀想だし、彼女を可愛がっている連中が黙っていないだろう。
面倒くさい。
だから代わりに言葉で攻撃した。

「心配されるほど貧弱に見える? それに、僕が怪我しようがどうなろうが、君には一切関係ない」

突き放しの言葉に千鶴は黙り込んだが、納得がいかないようで、口を鳥みたいにムウッと尖らせている。
そんな風にされて納得がいかないのは総司も同じだった。
だから完全に敗北を認めさせるために質問を続ける。

「僕も質問するよ。どうして君は建物内に入ってきたの。外で待ってろって言われたよね」

あの夜、千鶴はもともと伝令係として現場にいた。
戦力になんて最初から考えられていなかったし、近藤が彼女に刀を握らせることを良しとするはずもない。
伝令以外は出来るわけがないし、求められてもいなかったのだ。
だから外で待機させていた。
怒声罵声が響き、斬り合い、殺し合う戦場。
そこへ彼女が踏み込んできたと知ったとき、恐らく誰もが驚いたはずだろう。

「手が足りない、誰か来てくれという声が聞こえてきて、私しかいなかったので……」

千鶴が震える足を叱咤させながら池田屋に踏み込んだのは、それだけの理由だと言うのだ。
総司がよくわからないといった顔で千鶴を見る。
それに千鶴が気圧されるように目を逸らした。

「そこからどうして僕のとこに来たの?」

総司がいた場所は、池田屋二階。踏み込めば簡単には脱出することができない、建物の奥。
彼女がわざわざ危険をおかしてまで、来てくれた理由に、興味があった。のだが。

「近藤さんに頼まれたから…………」

千鶴の答えは、総司にとって詰まらないものだった。

(……何それ。そんな理由? 死ぬかもしれない戦場に、頼まれたからってやってきちゃうような子なんだ)

心の中で悪態吐いて、総司は眉を顰めた。
だけど千鶴はそれに気づかないまま、小さく何かを決意するように頷き、総司を見上げた。

「私も聞いていいですか? 沖田さんはどうしてあのとき私を守ってくれたんですか?」

突然の質問。
総司は目をまん丸に開いてぱちくりさせる。
そして、さらに眉を寄せながら、天井へと視線を泳がせた。
あのときも同じ質問をされた。
二度も聞いてくるなんて相当気になっている証拠だ。
あのときは正直、衝撃を受けた場所が痛くて、喉奥から血がせり上がってきて苦しくて、意識が遠のいていって……千鶴の質問を真面目に考えるどころじゃなかった。
冷静な頭でもう一度考えてみる。
あのとき何故千鶴を守ったのか…………。

「……さあ、どうしてだろう?」

しかし出てきた答えは、あのときと同じものだった。



( 中 略 )



「……あの、沖田さん。味見していただけますか?」

漬物を切っている総司に声をかかった。
どうやら千鶴は、以前味が合わないと言われたことを気にしているらしい。
こうやって同じ当番の日に、味見を頼まれるようになったのだ。

「んー、そう」

総司はわざと素っ気ない返事をし、まな板に向かっていた。
だが千鶴には見えない角度で、にやりと口角を上げる。
あれから千鶴が逃げなくなった。
こうやってちょっとしたことでも話しかけてくれる。
総司はそれがなんだか嬉しかった。
そして少し間をおいて焦らした後、まだ待っているであろう千鶴の方へと振り向いた……のだが。

「すげー旨い! 千鶴、いい嫁さんになれるよ!」

同じく食事当番である平助が先に味見をし、千鶴を褒めていた。
千鶴も嬉しそうな顔をしている。
なんだそれ。
二人の笑顔を見て、総司の気分は一気に急降下。
八つ当たりのように毒づきながら近づく。

「こんな子に貰い手がいるわけないよ」
「なっ、なんだったらオレが千鶴のこと嫁さんに……」
「ふふっ、ありがとう平助君」

総司の毒を良いように使って千鶴の気を引く平助に、総司は腹の底がムカムカするのを感じた。
笑顔でお礼まで言っている千鶴にもムカムカする。
二人にとってはさり気ない会話なのかもしれないが、社交辞令を言い合っているのかもしれないが、いつかこれが巡り巡って、本当の約束になってしまうかもしれない。
そう思うと総司は張り合わずにはいられなかった。

「平助なんて甲斐性なさそうだからやめておきなよ。僕のほうがずっとマシだと思うけど?」

……千鶴と平助の目が点になる。
そして言葉の意味を先に理解した平助が、腹を抱えて笑い出す。

「ぶっ、ははははっ! マジで言ってんの? 総司が結婚なんて……想像できねぇ、つうか興味ねえと思ってた」

涙目になりながらヒーヒーと笑う平助に、将来を全否定されたようで心外だ。
総司は口を尖らせ不機嫌になる。

「まあ興味はないけど……」

確かに総司には結婚願望なんてない。
近藤のために剣として生きることが全てだ。
けれどそれなりの年齢になったら、なんとなくするものだとは思っていた。
あと何年かすればきっと近藤がそれを望む。
そんな気がしていたから。
尚も笑い続けている平助を気にかけながら、千鶴が総司のほうへ視線を動かす。
手には味見用の小皿があった。

「もしこの味付けが僕の好みだったら、君をお嫁さんにもらってあげなくもないけど?」

小皿を受け取りながら、総司なりに先程の平助と同じような言い回しを使ってみた。
さっきみたいに嬉しそうに笑ってお礼を言ってくれることを期待していたのだが……。

「あは、ははは……」

千鶴が返したのは引き攣った愛想笑いだった。
扱いの差にむかついたまま、そのむかつきを抑えきれないまま総司は受け取ったものを味見した。
そして――
「まずい!」

勢いのままそう吐き捨てると、場の空気が凍ったのは言うまでもない。



千鶴に逃げられなくなってイライラが収まると思ったら、今度は別のイライラが降ってかかってきた。
その原因は、千鶴の総司に対する態度と、他の幹部たちに対する態度の違いだ。
この間だって原田と仲良くしていたし、今は平助と結婚の話題を楽しそうにしている。
けど総司が同じ話題を振っても、微妙な受け答え。
そりゃあ今までほんの少し冷たくしてきたこともなくはないが、こうもあからさまだと面白くない。

「沖田さん、これから巡察ですか?」
「うん。…………君も来る?」

何となく思い付きで誘っただけだった。
総司はあまり千鶴を巡察に連れて行く方ではなかった。
平助や原田、永倉は頻繁に連れ出しているようだが、総司の場合、気分によって同行させるかどうかを決めていた。
屯所にいても雑務くらいしかやることのない千鶴は、誘えばいつも尻尾を振って着いてくる。
嬉しそうに「はい!」と言う千鶴を思い浮かべながら、総司は返事を待った。
しかし千鶴は少し気まずそうに、すみません、と頭を下げる。

「今日は平助君の組に同行させてもらうんです。誘ってくださってありがとうございます。また次の機会に――」
「なんでよ。僕と一緒に巡察行こう。ね?」

断られたことは初めてだった。
千鶴が最後まで言い切る前に、総司は意地になって言葉をかぶせる。
せっかく誘ったのに何でこっちが断られなきゃいけないんだ、という子供じみた考えで。

「で、でも私、最初に平助君と約束を……」
「口約束でしょ? いいよそんなもの破っちゃって」
「そういうわけにはいきません」
「僕の誘いを断るつもり? いいから僕にしなよ」
「で、でも……」

二人が頑なに譲らずに言い合っていると、遠くから浅葱色の羽織を着た平助が、大きな声で千鶴を呼びながら駆けてくる。

「そろそろ行こうぜ……って総司。おまえも見廻りだろ? 準備しろよ」
「そうだよ。だから千鶴ちゃんは僕の隊に同行してもらうから」
「何言ってんだよ、千鶴はオレと約束してたんだって。ほら、行こうぜ千鶴」

平助が千鶴の手を掴んで歩き出そうとする。
そこで千鶴が断っておけばいいものを、総司に会釈して去ろうとするものだから、総司はむかっとした。
何でそっちを選ぶんだ。

ベチン!
反射的と言ってしまえばそうだ。
総司は千鶴と平助の繋がれた手へと手刀を下ろし、二人を引き離す。

「いってー、何すんだよ!」
「千鶴ちゃんと手を繋ぐのは禁止!」

そう言って総司は千鶴の手を引き、自分のほうへ引き寄せた。

「おまえだって繋いでんじゃん!」
「僕はいいの。君もわかった? 僕以外とこういうことしたら斬っちゃうよ」

総司の発言に反応した千鶴と平助が動きを止める。
斬っちゃうよ、の部分に反応した千鶴は重々しい表情で総司から顔をそむけて俯いている。
僕以外とこういうことしたら、の部分に反応した平助は驚き目を見開いている。

「……なに二人して変な顔して」

そして総司は二人の反応に眉を顰めた。

平助は他の幹部たちからよく鈍い、と言われる。
新選組の組長ともなる実力者なのだから剣の腕は申し分ないのだが、この場合の鈍さとは剣の実力のことをさしているわけではない。
そう、色恋沙汰だ。
こと極端に鈍いわけではなく、原田がモテモテな理由や、よく永倉が失敗する理由は、近くで見ていて理解している。
誰が誰に好意を寄せているとかも、よぉく気にしてみればわかるにはわかる。
…………このとき平助は総司の行動、言動に違和感を覚えて、よぉく思い返してみたのだ。

(なんで手を繋ぐのを禁止にされなきゃいけないんだ。べ、別にオレはやましい気持ちがあるわけじゃ……。ん? 総司はよくてオレは駄目って? 巡察だって総司は千鶴のことあんま連れて行きたがんなかったのに突然なにがあったんだ? メシ作ったときも嫁に貰ってやるとか冗談言ってたけど……冗談、だよな…………? だってこの前まですっげー雰囲気悪かったし、千鶴は落ち込んでて左之さんにべったりだったし。いや、でも最近はよく一緒にいるんだよな、この二人。たぶん総司が謝って、仲直りして……って総司が謝る!? ないないない、それは絶対ない、有り得ねぇ)

……と、思い浮かべたことを頭の中で否定させながら、平助は総司を見る。
恐怖で硬直している千鶴の背丈に合わせ、総司は背を丸めて彼女に視線を合わせている。
意地悪そうな笑みを浮かべ、まるで連行するみたいにしっかりと千鶴の手を握っていて。
しかし見方を変えるとこういう風にも見える。
緊張して戸惑っている千鶴に顔を寄せて微笑み、触れるのを我慢できないみたいに、愛しげに指を絡めていて……。
眉間に皺を刻みながら総司と千鶴を観察した平助が出した答えは、よくわかんねーから直接聞いてみっか! だった。

「総司って千鶴が好きなのか?」

歯に衣着せぬ直球で攻めてきた平助に、驚きの声をあげたのは千鶴だった。

「ど!? っ、どど、どうしてそんなこと!?」
「いや、そうなのかなーって思って」
「好きってどういう意味? なんで僕が?」

首を傾げて、本当に意味がわかっていないように目をぱちくりさせながら総司が言った。
その反応に平助は、なんだ取り越し苦労だったのかと息を吐くのだが、総司は首をかしげたまま千鶴の顔を覗き込んだ。

「好き……なのかな、君の事。どう思う?」
「え……ええぇぇ!? わ、私に聞かれましても、えっと、その……からかわないで、くださっ……」

総司の突然の言葉に、千鶴が顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせる。



( 中 略 )



重苦しい空気が広間を包む。
今は主要な隊士たち――つまりは千鶴が女であることを知っている者たちが集まっての合議中だ。
千鶴が全員分のお茶を持ってやってきたところで土方が「よし、全員揃ったな。始めるぞ」と切り出したため、千鶴は自分も人数に入れられているのかと首を傾げた。
千鶴にとっては寂しいことなのだが、新選組において彼女の存在は決して「仲間」と呼べるものでも、認められるものでもない。
重要な合議の際も広間への立ち入りが許されるようにはなったものの、基本的に「不要なことはあまり聞かないほうがいい」と言われていた。
全員にお茶を配り終えると、千鶴は総司の斜め後ろに座る。
千鶴にとっては眺めのいい特等席だった。
土方が千鶴の着席を見届けた後、隣に座る近藤に話し合いを始めるための目配せをした。

「今日皆に集まってもらったのは、総司と雪村君のことなんだが……」

近藤の切り出しに何も聞いていなかった総司は驚き、背後の千鶴に注いでいた意識を近藤へと向ける。

「僕と千鶴ちゃんの? 僕たちがどうかしましたか?」
「うむ、俺も詳しくは知らんので本人たちに聞こうじゃないか」

本人? と総司が首を傾げると、土方が該当する人物たちの名を挙げた。

「藤堂、永倉。おまえらが説明しろ」

千鶴は土方が彼らを苗字で呼んだことに気づき、心がざわついた。
試衛館時代からの付き合いである彼らが、時折、普段と仕事で呼び方を使い分けているようなことに何となく気づいていた。
つまり今回の話は仕事の話であり、それに千鶴と総司が関わっているらしい。
全く心当たりのない千鶴はゴクリと唾を飲み込み、膝に置いた手を強く握り締めた。
指名された平助と永倉は顔を見合わせ、どちらが言うのかの譲り合い……正しくは押し付け合いを表情だけで繰り広げ、広間にしばしの沈黙が流れる。
焦れた原田が隣にいた永倉の脇腹へドスッと肘鉄を喰らわせたことでようやく二人の押し付け合いに決着がついた。

「あー……じゃあ俺が言う」

痛みの走る脇腹を摩りながら、永倉が切り出した。
千鶴は背中に緊張の汗がツーと伝うのを感じながら、広間を一度見回した。
近藤は腕組みながら永倉を見ている。
詳しく知らないと言っていたのだ、その表情から今回の事情を探ることはできないだろう。
土方は眉間に皺を寄せて目を伏せている。
彼は恐らく事情を知っているだろうが、これ以上見ていると目が合いそうで怖くなり、千鶴はサッと視線を変えた。
次に斎藤を見る。
相変わらず姿勢のいい座り姿だ。
彼が足を崩して座っているところを、千鶴は見たことがなかった。
今みたいな合議中も、食事中も、部屋で書き仕事などをしているときも……。
千鶴が新選組に出会ったばかりの頃、まだ部屋から出してもらえなかったときに彼はよく千鶴の部屋の前で監視役をしていた。
寒い季節に平然とした顔で正座のまま一刻、二刻と微動だにしない斎藤のことを千鶴はすごいと尊敬していて、でも絶対に立ったときに足が痺れて歩き出せないだろう、そんな姿を見たい! とドキドキしていた。
まあ、結果は彼らしく平然と立ち上がってスタスタと歩き出したのだが。
と、まあ脱線しすぎて何をしようとしていたのか完全に忘れた千鶴だが、平助へと視線を移したときにようやく現実に引き戻る。
目が合うなりサッと逸らされた。
そうだ、そもそも彼と永倉が今回の件を訴えた人物なのだ。
当然平助は議題を知っている。
目を逸らされるほど気の重い事態が起きたというのかと千鶴は不安になり、彼ら発起人と仲の良い原田に縋るような視線を送る。
さっさと話を切り出さない永倉を呆れたように見ていた原田は、千鶴から注がれる視線に気づく。
不安げに周りをきょろきょろしている彼女に、原田はどうせくだらねーことだろうから安心しろとでも言うようににっこり笑顔を向けた。

「…………っ!」

本人は無自覚なのだろうが原田の色気たっぷりの笑みに千鶴は照れてしまい、慌てて俯く。
なんだかあてられた気分だ。
そこへ、原田の視線の先を辿った総司が眉を寄せながら振り向き、なぜか顔を赤らめている千鶴を見つけた。
原田、千鶴を交互に見遣り、彼女が赤い理由を察すると――畳を叩いて千鶴の意識を自分に引かせる。

ダァン!
いきなり近くからした音に千鶴が顔を上げると、不機嫌そうな表情の総司と目が合う。
あれ? と思ったときには総司は千鶴から顔を逸らし、原田へと睨みを利かせていた。

「左之さんは油断も隙もありませんね」
「おいおい、この程度のことで何言ってんだ」
「僕の千鶴ちゃんに色目を使わないでくださいって言ってるんです。ほら千鶴ちゃん、こっちおいで」

おっまえ人前でいけしゃあしゃあと……とその場にいるほぼ全員が思わなくもなかったが、千鶴が絡んだときの総司のタチの悪さは身に染みている。
だれもそれ以上はツッコミを入れようとはせず、真っ赤な千鶴が大人しく総司の隣に座るのを待った。

「なんだ、その……二人が恋仲なのは重々承知だ、俺たちも応援したしな」

出鼻をくじかれた気分で永倉が話を切り出した。
総司と千鶴が想いを確かめ合ったのは数ヶ月前。
何かとちょこまかしている千鶴が気になっていた総司は、忠告と称して散々酷い態度や言葉を彼女に浴びせてきた。
その『気になる』感情の出所が恋だとも知らずに……。
その後やっと自身の気持ちを自覚した総司だったが、それまでのツケが回ったせいか千鶴が鈍すぎるせいなのか、直球で想いを伝えてみてもスルッと流されてしまった。
直球が駄目なら変化球と言わんばかりに総司はあらゆる努力をこなし、その不憫な様子に幹部たちは同情すらした。
だが努力の甲斐あってようやく千鶴と両想いになれたのだ。

「あ、ありがとうございます。あの……広いお部屋も用意していただけて」

千鶴はもう何度目になるかわからないお礼を言う。


つい最近、屯所がこの西本願寺へ移動した。
以前の千鶴は自分の部屋を追われて(※総司の策略)、総司の部屋を間借りしていた。
その後に恋仲になったのでそのまま同じ部屋での生活を続けていたのだが、激務をこなす総司にとっては一人になれる時間がなくなって心が休まらないのでは? と心配していた。
もともと総司は荷物があまりなかったため二人で生活をしても大丈夫だったが、千鶴の中ではずっと、いいのかな、という気持ちがあった。
かといって元の部屋に戻れとか別のところに移動しろと言われても、それは出来ない……というより、したくはなかった。
総司の身体のことは心配だったが、何も言わない彼に甘えて、千鶴はずっと同じ部屋に居続けたのだ。
だから、屯所移転の際に用意された部屋を見たときは嬉しかった。

「他の隊士におかしいと疑われたときの言い訳になるだろう」

と土方が言ってくれたのだが、その広めの部屋は中を襖で仕切れば、以前使っていたくらいの大きさの部屋と、四畳半ほどの小部屋にわけることができた。
だから二人の関係を勘繰る人がいたら、副長付き小姓として幹部の近くの部屋に仕えているだけだと答えればいいのだ。
大きい部屋を総司が使い、小さい部屋を千鶴が使う。
隣部屋になったようなものだと考えればいい。
普段は襖を開けっ放しにしておけば寂しくないし、すぐに出入りできる。
寝るときは襖を閉じて、でも全部閉めてしまうのは寂しいから半分だけにして……――千鶴は当初そのように考えていたのだが、それは初日にすぐに破られた。

『どうして部屋をわけるかなあ?』

総司がいない間に寝具の準備を整え、襖をかっちり閉めていた千鶴のところへ、不満めいた総司が顔を覗かせる。
千鶴が丁寧に敷いた布団一式をぐしゃっと抱えていて、お行儀悪く足で半開きの襖を開く。

『で、でもせっかくお部屋が二つにわかれるのに……』
『あっちは生活部屋、こっちは寝室にしよう』

そう言って総司は無造作に布団を置く。
二つの布団を並べるには狭い部屋。
どうしても布団がくっついてしまう。
千鶴は焦った。
以前まで二人の間を仕切っていた衝立は、八木家のものだったためもうない。
恋仲の若き男女がこんな狭い部屋で布団を並べて寝ようとすれば、起こるべくして起きることはある。
千鶴が危惧していたとおり、案の定それは起きた。毎晩毎晩、必ず。




( 中 略 )


せっせと掘った落とし穴に千鶴を突き落として、何食わぬ顔で助け出してあげるとしよう。
きっと千鶴は潤んだ瞳で見上げてきて、それに縋るしか地上へ出られる方法はないのだと必死に手を伸ばしてくるはずだ。
想像するだけですごく気分がいい。
すぐにその手を取って引き上げてあげたくもあるし、焦らしてその瞳をさらに潤ませたくもある。
だけど例えば、うっかり足を滑らせたふりをして一緒に穴の中に落ちてしまったら、どんな反応をするだろうか。
そういうときの彼女を一番見たいと思ってしまうから、自分は厄介な性格だと言われるのだろう。
きっと「私のせいでごめんなさい」と責任を感じてくれる。
罪悪感で満たされた彼女の心を意のままにするのはさぞ簡単なことだ。
だけどそんな心を手に入れたって面白くはない。
どうせなら「どうして沖田さんまで落ちてくるんですか!」と怒ってくれたほうが楽しそうだ。
彼女がそんなふうに人に責任を負い被せるようなことはしないとはわかっているけれど、千鶴に怒られるのは案外嫌いじゃない。
でも、たぶん、きっと……彼女なら一緒に脱出できる方法をあーでもないこーでもないと考えてくれるに違いない。
どちらか一人だけなら何とか助かるという状況にあったとしても、必ず「一緒」を選んでくれる。
もちろんその想いは総司も同じだった。
一緒に助かる道がないのなら共に堕ちていきたい。
こういうのって一心同体っぽくてすごく素敵だ、と総司は思う。
いや、渾然一体という言葉のほうが自分たちにはしっくりくる。
そのままドロドロに溶け合って一つになれたらどんなに幸せだろうか。
――そんなふうに期待に胸を膨らませていたのは、どうやら総司だけだったらしい。


「沖田さん、最初に私が出るのでお願いします」

そんなことを言いながら背中を向けた千鶴に絶句した。
総司の想いなど知りもしない彼女は、腰の辺りを掴んで持ち上げろと言わんばかりに両手を上に伸ばし、ちらりと振り返る。
妙にやる気満々の表情が癇に障る。

「……ふうん。一人で脱出するつもりなんだね」

落胆と苛立ちを込めた声色で総司が言い返すと、千鶴は慌てて首を振った。

「そんなわけありません……! 上がったら私が沖田さんを引っ張りあげて――」
「無理だよ。君にそんな力はない」

総司の重みに耐えられずに再び穴の中に転がり落ちて元通りの有様になるに決まっている。
指摘されてその通りだと気づいた千鶴は、眉間に皺を寄せつつしばし考え込む。
そして別の方法が思い浮かばせるや、ぱぁぁっと笑顔を浮かべた。

「でしたらすぐに助けを呼んできます。隊士さんたちに手を貸していただきましょう」

これでバッチリですね! と言わんばかりに千鶴は握り拳を作った。



――と言うのも二人は今現在、総司の身長ほど深い溝へと落下してしまい、自力での脱出が困難な状況にある。
普段ならばこんな失態は踏まないし、この程度の溝なら簡単に抜け出せる。
普段ならば、の話だ。でも今日は違う。
昨晩から降り続いた雪が一面に広がり、この辺りでは珍しいほどに降り積もっていた。
朝っぱらから気をソワソワさせた千鶴が部屋を行ったり来たりし、銀世界に向かってキラキラとした笑顔を振り撒いていた。
そんな様子が可愛くて――総司は気づけば「朝餉の前に散歩しよっか」と声をかけていた。
まだ誰も踏み入っていない白へと足跡をつけて回るのが楽しくて、夢中で雪道を歩く。
全てを雪が覆い隠してしまったようで不思議だった。その覆い隠されたものを暴いているようで面白かった。
いつもは気をつける段差などもこの雪では注意しようがなく、躓きかけたり、滑って転びそうになったり、すごく歩きにくい。それなのにそのたびに千鶴と笑い合って、いつの間にか手を繋ぎ合っていて、朝から本当にいい気分だった。

良かったのはそこまでだ。

たまにはこうやって外ではしゃぐのも悪くはないと思えた。
なのに、そろそろ戻ろうかという時に事件は起きる。
恐らく雪のせいで方向感覚を鈍らせていたのだろう。
総司の手から離れた千鶴がルンルンと足取りを弾ませながら向かって行ったのが……普段ならば近づかないように注意しているこの溝のある場所だった。
気づいた総司が慌てて声をかけたときにはもう遅く、千鶴はズボッと雪の中へと落下する。
側部に覆い茂っていた雑草が屋根のような役割を果たし、溝の中は空洞になっていた。
そのおかげで千鶴は雪の中に埋もれずに済んだのだが、降り積もった雪の分、地上への距離は遠くなっていた。
まあ、雪がなくとも千鶴一人では脱出できない高さではあった。
だからすぐに総司の名を呼んで助けを求めたのだが、朗らかな返事と同時になぜか総司まで溝の中へと落ちてきてしまったのだ。



「――やだ。そんなこと言って僕を置いて行く気でしょ」

絶対逃がさないもん! と、総司は頬を膨らましながら千鶴の提案を却下した。

「い、行きません。行くわけないです」
「どーだか」

千鶴からしてみればなぜ総司がこんな状況でそんなことを言い出すのかがわからない。
自分が最初に脱出すると言ったのだって、そのほうが効率がいいと思ったまでだ。
なぜか不機嫌になってしまった総司を困ったように見つめながら、千鶴は溜息を吐く。

「だったら沖田さんが最初に脱出してください」
「どうやって?」

千鶴の提案に総司は上を向く。
積もった雪のせいで総司が手を伸ばしても地上へは届かない。
どこかへ下手に力をかけてしまえば崩れてきてしまう危険だってある。

「私が沖田さんを持ち上げます」
「だから君の力じゃ無理だってば」
「それならっ、私が台になるから上に乗ってください」
「僕が乗ったら潰れちゃうでしょ」
「じゃあどうすればいいんですか? このままでは……」

なんら焦る気配のない総司に、千鶴は困惑の表情を浮かべる。
足首まで雪解けによる冷たい水に浸かっていて、落下したときに着物も湿ってしまった。
さっきまで大はしゃぎしていたのでまだ身体はポカポカしているが、このまま長時間ここにいたら凍傷になってしまうことだって有り得る。
自分はともかく総司がそんなことになったら……と不安がり、どうにかして脱出の方法を考え出そうとする千鶴。
すると総司が安心させるような笑みを浮かべ、千鶴をそっと引き寄せた。
やっと拗ねるのを止めてくれたのかと千鶴がホッとしながら見上げると――
「このままずーっと二人きりで居られたら幸せだよね。こうしてれば寒くないし」

総司は状況に似つかわしくないほど声を弾ませ、千鶴をぎゅっと抱き締めた。

「もうっ、ふざけないでください」

打開策など一切考えていないかのような態度と発言に、千鶴は頬を膨らませて総司を押し返す。
なんでそこまで暢気でいられるのか千鶴には理解できなかったのだが、総司は一段と楽しそうに笑い声を上げ、抵抗する千鶴を腕の中に押し込める。
そして、地上を見上げた。

「大丈夫だって。そろそろ来るから」

何が来るのだろう? と千鶴も釣られて仰ぎ見る。
ぽたぽたと不定期に水滴が落ちてきて、そこら中から小さな水音が聞こえた。
自分たちが落ちたときにできた穴がぽっかりと二つあり、そこから光が差し込んでくる。
すると、不意にその光が黒い影に遮られた。

「――おーい! 総司、千鶴ちゃん、ここにいんのか?」

総司の言ったとおりに誰かが現れ、呼びかけられる。
驚いた千鶴が思わず総司へと顔を向けると、「ほらね?」と得意げな表情の微笑みが返ってきた。



( 中 略 )


ここは暗くて恐い。
千鶴が閉じ込められたのはどこかの納屋のような場所で、人の出入りが滅多にないのかとても埃臭かった。
一体どこなのだろうか。浚われたときに目隠しをされたため、検討もつかない。
それでも外へ行けばなんとかなるかもしれない。
千鶴は何度も逃げ出すことを考えたが、後ろ手に縛られ、足も縛られ、身動きが取れなかった。
一刻程前までは歯がガチガチと音を立てるほどだったのに、もはや寒さにすら麻痺してしまったのか、震えが止まっていた。
だが捕まえられたときに抵抗したせいで、千鶴の片足には草履も足袋もなかった。
悴んで痛い。
せめてもの救いが建物の中だということだろうか。
この冬夜に外に放置されていたら、流石に凍死してしまう。

ふと耳を澄ますと、誰かが近づいてくる音がする。
ざくざくと砂利を踏む足音に、千鶴は身体を強張らせた。
その音は千鶴のいる納屋の前で止まり、扉の向こう側で施錠を解いている。
彼女を浚った者たちの目的はどこで掴んだのか、幕府の密命によって新選組で進められている薬の開発とその実験例についての事実確認および詳細を知ることだった。
つまり変若水と羅刹のことを探っている。
あれが新選組にとってどれほど隠しておきたいものなのかを、千鶴は身を持って体験している。
その秘密に触れてしまったが故に軟禁され、何度も殺されそうな思いをしては見逃されてきた。
その件について千鶴が知っていることは限られている。
今は山南に研究が引き継がれ、秘密裏に続けられているようだが、その詳細は千鶴に伝えられるはずもない。
しかし部外者からしてみれば、それだけの情報でも十分すぎるほどの秘密だった。
千鶴の知る僅かな情報ですら、漏洩すれば新選組の痛手になる。
口外すれば新選組が、総司が困る。
だから千鶴は絶対に何も言わないと誓っていた。

「おい、それは本当か?」

扉の向こうから男の声がする。
また拷問のような時間が始まるのかと千鶴は奥歯を噛んだ。
幸か不幸か、千鶴はまだ女だとはばれていなかった。
女と知られたら肉体的にも精神的にも屈辱的な目に合わされるに違いない。
そうならずに済んでいる現状に、まだどこかホッとしていた。
しかし、このままではどうなってしまうんだろうという絶望感が絶え間なく湧き出る。
このまま何も知らないふりをし続けていれば見逃してくれるほど甘くはないだろう。
用済みになったら始末されることはわかっている。
千鶴がすべきことは、そうされないように時間を稼ぎ、耐えること。
だが、千鶴の決意を一気に喪失される会話が扉の向こうから聞こえてきた。

「あいつ、さっき付けたはずの刀傷がもう消えていたんだよ」
「まさか例の薬で……? 実験体そのものだったわけか」
「それを今から確かめるんだよ。退屈していたところだ、余興代わりになるだろう」

彼らは既に羅刹のある程度の特徴を掴んでいたのだろうか。
千鶴の生まれ持っての治癒力と、羅刹のそれを混同されてしまったらしい。
まるで地獄の門のように思えるその扉が開くと、男たちは千鶴の足の拘束を一旦解いた。
まるで荷物でも扱うかのように千鶴の胸倉を掴み、母屋へと移動する。
彼らは言った。
確かめる、と。余興代わりになる、と。
一体何をされるのか、千鶴にだって簡単に想像ができた。
そして放り投げられた部屋には複数の男たちが待ち構えていた。
ここに連れて来られたときよりも数人増えている。
一体全部で何人の敵がいるのだろうか、千鶴は無意識にもその人数を数える。
が、その瞬間に千鶴の頬一直線に熱い痛みが走った。
痛みの出所を確かめようとすると、千鶴をここまで連れてきた男がいつの間にか抜刀していて、その刃が僅かに赤くなっていたことに気づく。
千鶴は遅まきながらこの痛みはそれで切られたものだと理解し、震えるほどの恐怖心に包まれた。
部屋の中は水を打ったように静まり返っていた。
男たちの視線が食い入るように千鶴の頬に注がれ、内数名が同時にゴクリと唾を飲み込む。
千鶴は己の傷が治っていっていることを間接的に実感し、それと並行するように男たちの目に畏怖の色が灯った。誰かの口元が「ばけものだ」と動いたのがわかり、千鶴の心を傷つける。
だけど傷心に浸っている時間などない。
これは好機だった。
足の縄が解かれた今、この足で走り、逃げ出せる。
彼らが呆気に取られているうちに、この場から。
あの人数相手に逃げ切れるかはわからないが、この闇夜ならばどこかに身を潜め、日が昇るのを待てば或いは……。
幸いにもこの部屋に入ったときの襖が開きっぱなしだった。
それなら後ろ手に縛られたままの千鶴でも、手を使うことなく外へ脱出できるし、襖の開閉という動作に時間をかけなくて済む。
そこから先のことなんて頭にはなかったが、千鶴は意を決して走り出した。
このままここにいるよりは、この選択肢が正しいのだと信じたかった。
しかし僅かに遅れて我に返った男たちが、次々と刀を抜いて追いかける。

「やっちまえ! どうせ死なねぇぞ」
「いや、加減はしろ。使い物にならなくなったらどうする」

どこか狩りを楽しむような残虐めいた笑いが耳をつく。
口々に千鶴を異種異類だと罵り、その小さな細身目掛けて刀が振り下ろされた。
千鶴からは己が発したとは思えないほど大きな叫び声があがり、突如動かなくなった足が縺れてその場に崩れ落ちる。恐怖と悲しみで、様々なものが溢れ返りそうになった。





こんな感じの話です(´∀`*)





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