いつか迎える日


「ぎゃははー!!シャチ、何だそれ!?」

「似合わねーもんシャチが持ってるぞー!!」

「あーもう、うっせー」



 無事出航してしばらく、シャチはデッキへと足を運んだ。
 しかし歩く度、クルー達に出くわす度にからかわれるものだから、シャチはいい加減言い返す気もなくなっていた。それでも手に持ったそれを大事そうにする様に、ペンギンにすらちょっと変なものを見たと言う様な顔をされ、ため息をつく。

 デッキから見下ろす波は穏やかで、頬を撫でる風もあの夜感じたものより随分暖かい。
 もう、あの島は小さくなり、肉眼でやっと見える程度になっていた。


 シャチは手に淡い桃色の花びらを編んだ花冠を持っていた。途中、青い石の付いたピアスと、ピンクコーラルのカメオを一緒に編みこみ、簡単には解けないように。

 我ながら綺麗にできたと思う。きっとレキの白い肌に良く似合ったとも、思う。



「いったのか」



 シャチが花冠を眺めていると、思わぬ人物から声がかかった。
 少し離れてデッキの手摺に肘をついていたローは、普段と変わらない様子でシャチに視線を向けていた。

 そういえば町で一度、レキと一緒にいる時にローと会った。
 彼には見えていたのかもしれない。思い返せば、あの時のローはそんな顔をしていた。

 レキ、早速お前が見える人がいたよ。まさかの船長だ。



「可愛い娘だったでしょ」

「よく見えてねぇよ」



 それ以上は何も言わず、ローはデッキを後にした。いつの間にか、デッキは驚く程静かになっていた。




「お前は、満足だったか?」



 その呟きに答えてくれる声は、もうシャチの耳に届いてこない。
 もう、あの島に戻ることもない。



「おれは、楽しかったよ。すっげー楽しかった。レキと会えて」



 最初は本当に幽霊なんているのかと信じられなくて、随分みっともない姿を見せてしまったけれども、少しは格好良いとこも見せられただろうか。最後まで情けなかったかもしれない。

 一緒にいた時間なんて本当に瞬く間だったけれど、それでもその一瞬で、恋をした。



「お前に言えなかったなぁ……言い逃げなんてするからだ」



 伝えたいことがあった。

 シャチはカメオを裏にくるりと回す。
 そこに彫られていた名前は潰されていた。



「おれも、レキが好きだ。すっげー好きになった」



 面と向かってそう言えば、レキはどんな顔をしただろうか。驚いたかもしれない。
 そしてお互いに気恥ずかしくて、一緒になって笑えたに違いない。



「これ。約束だったよな」



 シャチは手にしていた花冠を遠くの波に向かって手放した。

 レキの元へと届く様に。自分の想いも、一緒に乗せるように。



「また、な。レキ」




 また、いつか。


 また、かならず。


 また、恋をして。


 また、笑おう。









(今度はちゃんと、好きって言わせろよなー!)

(シャチ女の子に振られちゃったのかな……)

(いつものことだろう)

(しばらく置いとけ)

(キャプテン知ってるの?)

(さぁな)




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