瞳の奥で
バクバクと鳴る心臓が煩い。
でもこの機会を逃せば、もうローの気持ちを確認することはできないんじゃないかと思って、レキは意を決して顔を上げた。
「船長がっ……私を、好きじゃないなら……いや、です……されるの」
しどろもどろに何とか口にした音は、上手く言葉になっていただろうか。
震えそうになる手をぎゅっと握り締める。彼の特別でありたいなんて贅沢をいうつもりは無かったが、それでもこのキスに何かしらの意味を求めた。
もし拒絶されたら自分はどうなってしまうのだろうと、怯える気持ちがじわじわと不安を生んでいる。
顔は驚くほど熱いのに、手足は氷水に浸したように冷たかった。
長い長い沈黙は、きっとほんの数分。見つめている瞳を反らさなかったのは、レキのちっぽけなプライドだった。
「おれが好きじゃなかったら?」
「っ……だったら、こんなこと」
ローの言葉にじわりと涙が滲みそうになる。
やっぱり彼の気紛れで、自分はからかわれていただけなのだろうかという思いが去来して、ざわざわと胸を騒がせた。
しかしそれが瞳から溢れ出る前に、レキの身体は強い力でローに抱き寄せられた。
「好きだったら、文句ねぇんだな」
耳元で呟かれた言葉に、レキは大きく目を見開いた。
「っ船長……?え、船長……?」
頭が追いつかず何度も瞬きをするも、状況を把握するには至らない。
フル回転していてもどこか空回りするレキは、突然顔を両手で包まれると、驚く間もなくローの視線と絡むように上を向かせられた。
その瞳はどこか優しくてどきりと胸を打つ。
思考が一瞬停止した。
「もう文句はねぇだろ?」
確認するように、そう呟くローに釘付けになる。
その言葉に、今まで理解できなかったことが一気に鮮明になり、言い表せない程の感情が、激流となって胸の隅々まで広がった。
「文句ない、です……っ」
喉にせり上げる想いを、どう言ったらいいかわからなくて、溢れる感情は顔いっぱいの笑顔に変わった。
頬を伝った涙は、溶ける様に暖かい。ローがその雫を指先で掬い、顔を覗いて小さく笑った。
そして初めて、互いに顔を寄せ合ってキスをした。
船長
ん
傍にいてもいい……?
……バカか、お前
む
離してなんてやらねぇからな
---fin.