最後の問いかけ
抵抗らしい抵抗を見せないレキに、触れるだけのキスを落とす。
強張った身体と、緊張でぎゅっと閉じられた瞳が初々しくて、可愛いと思ってしまう自分が安直で可笑しい。
唇を離すと、恐る恐る開かれるレキの瞳は、戸惑いと羞恥で少し潤んで見えた。
不意打ちとばかりにもう一度、今度はわざとらしく微かにリップ音を鳴らして触れれば、レキは毛を逆立てた猫の様に肩を跳ねさせた。
「船長……ベポ、いるのに」
「どうせ寝てる」
後ろの白熊に意識を向ければ、相変わらず起きる気配は無さそうだった。
恥ずかしそうに身動ぐレキは、普段の活発な様子とは違って、ほのかに女を匂わせる。
彼女がそんな姿を見せるのは自分だけで、自分がレキをそうさせていることが何とも言えない優越感を生んでいた。
「船長……どうしてこんなことするんですか」
「したいから?」
「っ私の気持ち、無視して」
「んだよ、誰か遠慮するやつでもいるのかよ」
「へ?や、そういうことじゃないですけど……」
レキが言葉の意味を図りかねて首をかしげる。我ながら刺のある言い方だった。
もう一度顔を近付けると、やはりレキは少し身体を引こうとするが、抵抗はしない。
それは自分を受け入れているからなのか、それとも自分が船長という立場であるが故に逆らえないのか、
ローには分からなかった。
レキの心がどこに向いているのかが見えないのに、それでももう手放してやる気なんてなかった。
ただどうしても、それを言葉にはできないでいた。
「じゃあ、こうされるのは嫌か?」
「っ」
「おれが船長だからってのはナシだ」
逃がしてやる気はないくせに、それでもレキの本心を暴きたくて、ズルい問いかけをした。
こう言われて、首を縦に振れるレキじゃないことくらい、わかっているのに。それでも、確かめたかった。
なあ、レキ。
お前は誰かを想っているのか?
誰がお前の瞳に映っている?
数分も無い沈黙がやけに長く感じられて、それでもローは急かすことなくレキが口を開くのを待った。
「や……です」
弱々しい声は突然ローの耳に飛び込んできた。
その声が「いや」と発せられたことがすぐには理解できなくて、ローは瞳を瞬く。
触れていた手が次第に離れようとすると、レキが勢い良く顔をあげた。
「船長が……っ」
自分に向けられる顔はこれ以上無いくらいに真っ赤で、ゆらゆら揺れる瞳には、
何かを決めた様な光が宿っていた。