きみがすき


唇を塞いで、繋がった手を握って。

まるであの夜みたいに。
誰かに奪われたと思い苛立ったのは、自分のクルーだからという理由じゃない。幼稚なキスを繰り返した時に感じた想いは、偶然なんかじゃなくて。

初めて人の死を恐怖したのは、他の誰でもなく彼女だから。




レキが好きだ。





***




「あ、キャプテン!レキは?レキは??」

「目覚ましたんすか??」



海図部屋には中央の海図の乗った机を囲むように、ベポとシャチ、そしてペンギンが立っていた。

扉を開けたのがローだとわかると、ベポとシャチは途端に飛びつく程の勢いで言う。
ローは少し顔を上げただけのペンギンを一瞥すると、静かに呟いた。



「意識は取り戻した」

「わー良かった!おれ、レキに会ってくる!」

「おれも行ってきますー!」



二人はそれだけを聞くと、喜びもそのままに部屋を飛び出していった。
ベポのドスドスという大きな足音が遠ざかっていくと、次第に海図部屋は元の静謐さを取り戻す。

ローは目の前の男に視線を向けた。
静かに海図に向かっているペンギンは、先程上げた視線をまた落としていた。



「お前は良いのか?」

「今は俺が離れるわけにはいきませんから」

「そうかよ」



今は、という言葉に違和感を覚える。

こんな状況でもなければ、レキの元に駆け付けたいのだろうペンギンは、それでも黙々と海図とログポーズを見ていた。

レキとペンギンはどういう関係なんだろうか。先程浮かんだ疑問が、ふいにまたローの胸に去来する。二人しかいない部屋は自然と静まり返っていた。

しかしそんな沈黙を破ったのは意外にもペンギンだった。



「レキは大丈夫でしたか?熱は」

「もう下がってる。まぁ、しばらくは安静だがな」

「……そうですか」



目深に被った帽子と、俯いた体勢で表情は分からなかったが、場の空気が揺れるような安堵が見てとれた。

この男がこんなにも分かりやすく感情を吐露する様は滅多になくて、ローですらも珍しいと感じる。

そこにあるのは一体何なのか。
気にならないといえばそれは嘘だったが、逆に気にしても仕方ない。



「まぁ、もうすぐ部屋に戻すからよ。後で顔でも出してやれ」

「船長」

「ん?」



振り向いたローは、いつのまにかこちらを見ていたペンギンと目が合う。
その口許は僅かに笑っていた。



「傍に居ててやってください」



まるで以前から、そして今の自分たちも見透かされている様なそれが憎たらしくて、ローも口角を上げて答えた。



「言われなくても」



相変わらず食えない奴だと思いながら、ローは部屋を後にした。
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