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「おっほん!というわけで〜〜??」


 前置きが長いだの、早く始めろだの、机に乗るなだの、様々なヤジが飛んでいる。しかしそれを受けながらも何故か自分のことの様に胸を張ったシャチが、ひときわ声を張り上げた。


「レキのハートの海賊団入りを祝ってーーカンパーイ!!!!!!」


 続けてクルーたちも各々に持ったジョッキを高々に上げていった。その中心にいる筈のレキも自分に渡されたグラスを高く上げる。ビールは苦手だったから、コックが用意してくれた甘いカクテルで。
 シャチのご発声の後は、次から次へとクルーたちがレキの持っているグラスに、自分のジョッキを打ち付けていった。その勢いに中身が零れないだろうかと冷や冷やしながらも、レキはずっと笑いを絶やさなかった。
 このグラスを打ち付ける音一つ一つが、自分がこの船に乗る事を祝福してくれる鐘の音のようだった。


「レキ!これからも宜しくねー!!」
「う、うん……っ!」
「新参者だからな!おれが色々教えてやるぜ!」


 何故か始まったばかりなのにもう出来上がっているシャチとベポは、その喜びのまま二人肩を組んで踊りだした。それをまた冷やかすクルー達も、めでたいめでたいと事あるごとにレキの頭を乱暴に撫でていく。
 ぼさぼさになる髪をその都度手で整えながらも、それすらも今のレキには嬉しく思えた。

 一通り乾杯の嵐が終わると、レキは席を立ちあがり奥のソファへ向かった。そこにはジョッキを片手に、機嫌の良さそうなローが座っていた。機嫌が良さそう……というのはレキの見解なのだが、彼の纏う空気が柔らかい気がしたのだ。


「船長さん、ありがとう……船に残してくれて」
「ふん、こき使ってやるから覚悟しとけ」
「うん!」


 持っていたグラスを彼のそれに近付ける。ローは一瞬驚いた様に瞬いたが、直ぐ様口角をわずかに上げ、カンッと音を鳴らした。
 仲間だと改めて認めてもらえたようで、嬉しかった。


「まさか、こうやって仲間になるなんてな」
「ペンギン…ありがと!」


 カンッとグラスを打ち直す二人を、ローが横目に見ていることには気付かなかった。



***



「そういやー、レキの能力って結局何なの?」


 もう既になんの目的で始まったかなんて忘れてしまわれた宴の途中、千鳥足になったシャチが急にレキの前に現れた。突然のことに驚くもレキは申し訳なさそうに言う。


「それが…まだ怖くて使ってなくて……わかんないの」
「何でだよーもう手錠も外れたんだろ?気になる気になるー!」
「それはそうなんだけど……」


 完全に酔っ払いが絡んでいるだけのその様子に、ローは壁に立てかけていた鬼哭をおもむろに手に取り、鞘付きのままでシャチの頭をゴンッと叩いた。


「ったー!!キャプテン横暴!」
「抜身の刀の方が良かったか」
「滅相もございません!」


 シャチがローの射程圏内から外れると、今度はペンギンがレキのすぐ隣りのソファに腰を下ろした。
 構図的にはペンギンとレキが隣に座り、そして少しの空間があり、ローが座っている。レキは特に気にした風もなく、空になったグラスを揺らしてペンギンに笑いかけた。


「これからも宜しくね、ペンギン。私、ペンギンの部屋の掃除手伝うから」
「そうか、じゃあこれからはレキに頼むようにする」
「レキ、そんなこと言ってるといつかペンギンと一緒に生埋めで死ぬってマジで……」
「こいつの能力の話だが」


 和やかな会話であった筈だが、急に突拍子もないところから聞こえた声に三人、いやその場のクルーは一点に顔を向けた。レキも弾かれた様に隣を、ローを振り返る。
 先程は機嫌が良さそうに見えたローの表情は、もう深く被った帽子のつばに隠れて見えない。何か怒らせる様なことをしたかとシャチを見るも、ふるふると首を振るだけだった。


「明日にでもシャチと戦闘訓練をさせる。身体は戦いを覚えているようだしな」
「レキ戦えるの?体術とかできるの?」
「え、あ……うん……」


 首を傾げたベポに曖昧に返事を返す。
 ローはきっと砂浜で男達二人を相手に大立ち回りを演じたことを言っているのだろう。しかしレキにしてみれば、どうして自分があんなに動けたのかもわからないし、今実際にやってみろと言われてできる自信なんてなかった。


「能力の使い方なんて、使ってみるまでわかんねぇもんだ」
「船長さんもそうだった?」


 何故か口をついて出た言葉がそれで、ハッと口を押える。しかしローはそれには答えず、ジョッキの酒を一気に飲み欲し、片手でレキの胸ぐらを掴みぐいっと引き寄せた。


「明日になればわかる。役に立つ能力だといいな?」
「ち、ちか…っ」
「おい!酒が切れてるぞ!!」
「はいはーい!!キャプテン専用のビール追加ー!!」


 頬が赤く熟れたリンゴの様になる前にその手は離され、ローはシャチから新しいジョッキを受け取った。レキは突拍子もないローの行動にドギマギするばかりなのが悔しく、自分も机に適当に並んだグラスを一気に飲み干した。


「あ、おい、それは」
「ッ!ごほごほっ!」
「水水!」


 瞬間咽が焼け爛れる様な感覚と鼻に抜ける苦味、そして胃に流れるマグマの様な熱。
 ベポが用意してくれた水を半ば流し込む様に飲むも、しばらくしてレキの意識は遠くなっていった。

 遠くで「あちゃー」というシャチの声が聞こえた気がした。

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