39

 この事態が自分の責任だと、レキは理解していた。ローといくつか言葉を交わした後に切り刻まれた男は、ずっとレキの方に視線をやっている。
 海賊に狙われている。この記憶喪失も、全ての原因がそこにあった。

 もう船に残りたいなんて言えない。急に指先が震えだしたから、思わず隣にいたベポのツナギの先を握った。自分をじっと見つめるローと目があったのは、そんな時。


「船長、さん……」
「……」


 どうしたら良いのか、わからなかった。縋る様な視線を受けてか、ローは少し視線を揺らし、向こうを向いてしまった。
 ここに残れば、きっとまた自分を狙った者達が襲撃してくるだろう。だが一緒に行きたいなんていえない。迷惑をかける。そうすれば彼らが自分を疎ましく思う。それが怖い。


「わ、たし……っ」


 しかしやっと記憶に関する手がかりが見つかった。ローもそのことを知っている風だった。だったら彼らと一緒にいきたい、そうすれば何かが見つかるかもしれない。


「一緒にいこうよレキ!」


 ツナギを握っていた手を、ぎゅっと握り糧してくれたモコモコのベポの手。そっと顔を上げると、ローと一緒にいたシャチも声を上げた。


「そうだぞー!あいつらはおれ達にもケンカ売ったんだからな!」
「……もう、お前だけの問題じゃない」


 落ち着いた声はペンギンのもの。でもその目深に被った帽子に隠れた瞳は確実にレキを見つめていた。

 自分の決意のなんと脆いことか。甘えてしまおうか、彼らの誘いに。手がかりができたの、もう少し一緒にいさせてって。ちがう。そんなことは後付けだ。クルーたちが呼んでくれる声が心をせかす。

 しかしそんな時に何も言わず背を向けるローを見た。


「お前が決めろ」

「指図されるなんざ、合わねぇだろ?」


 そう、言われている気がして。甘えてる自分をその背中は叱咤しているようで。

 私は、行きたい。
 この人と、みんなと、もっと一緒に、いたい!


「っ…せ、んちょうさん、私の……私の手錠を外して!」
「……」


 ぴくり、と。彼が動いたのを感じる。喉を通って言葉となった思いは、堰を切ったように止まらない。


「私、役に立つから!私にあるっていう能力できっと、役に立つから!」
「だから私も、一緒に……一緒に連れてってください!」


 その瞬間、隣にいたはずのベポが急にいなくなって……急にローに変わった。驚き目を見開く。しかしそんな間もなく見えた彼の表情に、自分でも分かる程にどきりと心臓が跳ね上がった。


「やっと言ったな」
「っ」
「なら、おれもお前を受け入れてやる」


 「ROOM」という小さな彼の声と共に薄水色のサークルがレキの身体を包む。ぎゅぅっとローの腕はレキを抱き寄せた。心が解放されていく様な錯覚、しかしそれは現実で、ずっと私の身体を、心に重たく下がっていたものが音を立てて落ちた。


「もう逃がさねぇ」

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