30

「なぁなぁレキー、本当に降りちまうのかよ」
「おれ寂しい!せっかく仲良くなれたのに」
「ありがと、二人とも」


 大きな洗濯物のバスケットを腕に抱えた少女に、大きな白熊とキャスケット帽が泣きついていた。コインと新聞を交換していたペンギンは、眼下に映るその様子を黙って眺めていた。

 もう間もなく島に付く。クルー達の多くは着港の準備に慌ただしく動き回っている中、デッキの三人は朝早くからあんな感じだ。次の島には2日間滞在する。小さいながらも海軍の駐屯地がある為、買出しとログがたまり次第船を出すのだ。

 レキは結局、船を降りることを選んだ。昨日の夜、食事の席でクルー達にそれを伝えた。無理に笑顔を作る彼女は、ペンギンの目にはとても寂しそうに映った。そして、ローは何も言わなかった。


「結局、ここに居れる理由が……私に出来ることが見つからなかったの」


 そう夜風に当たる為に出てきたデッキで語ったレキ。そんな言い方をするということは、この船に居たいと本人は思っているということで。理由が見つからないとはどういうことなんだろうか。船に居たい、それが理由では駄目なのか。


(どうせ迷惑をかけるとか思っているんだろうが……)


 日頃から何か自分に出来ることをよく探している彼女は、この船でただ守られているだけなのが嫌なのかもしれない。ましてそれで、この船に損害でも出るなんてことになることを嫌ってのことだろう。そんなことを気にするクルー達でもないのだが。

 理由がほしいと言うなら、どうしてローが引き止めてやらないのか。きっと今ベポやシャチがしているように、自分が彼女は引き止めてもそれは理由にならない。この船の船長で、彼女を船に置くといったローが引き止めれば、レキはきっと留まる理由ができるのに。

 と、そこまで考えてペンギンは思考を停止した。


(引き止める?俺が……?)


 最初はレキを厄介者扱いして、船から追い出そうとしていた自分が、今では彼女が船に残るよう引き止める考えをしている。まさか自分は寂しいなんて思っているんじゃないかと考えてみたが、自嘲気味に笑って首を振った。


「おい」


 眼下に一人の男が姿を現した。その声にペンギンも手摺りに少し身体を乗り出し、視線を下ろす。いつもの様に長刀を携えた男の後ろ姿がそこにはあった。


「船長さん?」
「島に着いたら寄る所がある。付き合え」
「?うん、わかった」
「なになに?おれも行くー!」
「駄目だ」
「はい……スミマセン……」


 困惑するレキに、ローはそれ以上何も言わず、船内に戻っていった。いつもは大抵ベポをお供につけていくのに、ローは一体何を考えているのだろう。海軍の駐屯地がある為、そんなに出歩くこともせず通り過ぎる予定の島で、彼女を伴って行くところ。まさか、島に居を置く例の男の所じゃないだろう。

 ふぅ、と、ペンギンはため息をついた。少し前もこうやって彼等を見下ろしながら思案していたことがあった。

 その時はまだ彼女は船を降りると言う気持ちに揺らぎがなくて、引き止めるベポやシャチにもあっさりと下船することを答えていた。次の島が安全である保障などないのに、怖くないのだろうかとも思ったほどだ。

 今思えば、彼女が恐れているのは最初から何も変わっていないのだ。元々下船を選んだのは、この船に迷惑をかけない為。しかしこの船に残りたいと思い始めたろう今は、せめて何か自分がこの船で有益であることを探し、結局それを見つけることができなかった。だから下船を選ぶ。
 自分のことじゃなく、この船のことを一番に考えていた。


(キャプテンが引き止めて、この船に残ったとして……問題を先送りしただけになるのか)


 レキは気付いていないだけだ。本当は誰もが、彼女が船に残ってほしいと思っていることに。そのための理由なんて、必要ない事に。


(手を伸ばせば、もう誰もお前を拒まないのに)

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