28

 ローは船長室に戻る気にもなれなくて、デッキにやってきていた。

 本当にこの辺りは穏やかだなと思わせる海だ。海の音も、風の流れも、グランドラインとは思えない安定したもの。しかし夜の闇はとても色濃くて、その先に何があるかは見えなかった。


「らしくねぇなぁ……」


 ローは誰ともなしに呟いた。


 レキが時たま起こす感情の乱れ。発作と例えてはいたが、それの原因がぼんやりとわかってきた気がする。最初はペンギンからの【拒絶】を受けたとき。あの男はこの船にとって害であるかもしれないレキを、最初から受け入れることができないと拒絶を顕にした。そして今回の、馴染んできた船とクルー達との【別れ】もしくは、その後を独りで生きていかねばならないという【孤独】。
 レキがどこかに落としてしまった記憶の中に、そんなワードがあるのだろう。ただ本人はいまいちそれを自覚できていないようではあるが。

 レキは元々船を降りると言っていた。その理由は至極簡単で、どんな身元かもわからず、いざ戦闘になった時にお荷物になるしかない自分がこの船にいては迷惑になるから、と。しかしローは実際そんなことを気にしていなかった。女一人でどうにかなる様な海賊団でもないのだ。

 ただレキという女が面白くて、媚を売ったりもせずに生きてきただろうそいつの過去にも興味が出て。他人に興味を持つということを滅多にしないローにしてみれば、それだけでレキを手元に置いておく意味があった。よく変わる表情は女そのもので、それでもいつ見ても笑っている。あまり主張はしないものの、この船で自分のできることをいつも探している。女ながら、決してお上品とは言えないクルー達とも上手く過ごしている。
 そして、ローを優しいという。

 そんな女が船にいるのが、ローはいつの間にか悪い気がしなくなっていた。邪魔になれば切り捨てれば良いと、それは今でも思っているが、今はまだ、このままでいいとも思う。それよりももっと、レキという女を知りたかった。まるで医学書に向かっているような知識欲が、珍しくレキに向いたのだ。


「船に居たいって……顔に書いてあんだよ」


 先程のレキの顔を思い出して、ローは苦笑した。自分がこの船にいろと言えば、さっきのレキならもしかしたら頷いたかもしれない。だが、それで引き止めたとしても、きっといつかまたレキは船を降りると言い出す。レキが自分の意思でここに留まりたいと言わなければ、また次の島でも同じようなことがおこる。それじゃあ、意味が無い。
 ローは自分のものにはならないと言った女の口から、ここに残りたいと言わせたかった。この船に留まりたい理由が自分ではないことは分かっていたが、とりあえずはそれでもいい。それにこの自分が、女を強引に何度も引き止めるだなんて真似はしたくないというプライドもあった。


「あと3日……」


 どんな決断を下すのか、この3日、レキは考えるのだろう。そしてその度にさっきのことを思い出すに違いない。


「この船に居たいと、行ってみろよ。そうれば……」


 そうすれば、この船は……おれはお前を歓迎してやる。

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