25

「四次元部屋……」


 レキは整理を手伝い始めてものの5分でその言葉を理解した。ペンギンの部屋は想像以上という言葉がピッタリ当てはまる程の本と海図で埋め尽くされていたのだ。一体彼はどうやってこの部屋で寝ているのだろうかと思うが、一応ベッドの上と海図を書くのだろう机のスペースは空いているようだった。しかし言い換えればそこそこ広いはずの部屋で、その部分しか人が立ち入れる場所が無いのである。
 レキは噂には聞いていたが、まさかここまでだとはさすがに思っておらず、自分が寝ている部屋を片付けた時にも本が多いと思ったが、あの部屋以上の本が確実にあると直感し、ただただ圧倒されるしかなかった。


「レキ、気をつけろよ。下手に動かすと生き埋めだぞ」
「……うん……」


 シャチの忠告を真剣に受け止め、頷く。しかし隣にいるペンギンはさすがに慣れたもので、ひょいひょいと本を動かし、海図を引っ張り出していった。


「ペンギン……片付けられない人だったんだね……」
「別にそういうわけじゃない」
「本が好きなの?」
「俺は航海士だからな。吸収できる知識は全てこの航海に役立つ」
「……言ってることは格好良いんだけど、この本の山で全部台無しになってるよ」


 両側から迫ってくる本に挟まれたペンギンは、そんなに酷いか?と近くの本を取って言った。本人に自覚が無いのが凄いところだ。シャチの部屋に運び出す本を整理しながら、以前入ったローの部屋にも本がたくさんあったな、とレキはふと思った。しかし彼の部屋は思ったよりも整頓されていた気がする。ただ高そうな黒革のソファの周りだけは、こんな感じで本が山と積まれていたなぁと思うと少しだけ笑ってしまって、それを見ていたシャチが首を傾げていた。


「なんだよ、思い出し笑い?何か思い出した?」
「ううん、前に船長さんの部屋に入った時にこんな光景見たなぁと思って」
「レキってキャプテンの部屋よく入んの?」
「え?そんなことないよ、呼ばれてたまに行くこともあるけど……」
「……それって船長と寝てぎゃぐぁあぁぁ!!!」

「つまらない話をしているなら、これを運んでくれるか」


 急にレキの視界に写っていたはずのシャチは崩折れ、その上から大量の本がどさどさと落とされた。何食わぬ顔でパンパンと手と叩くペンギンに、一番本を雑に扱っているのはもしかしてペンギンなのではと苦笑した。


「ごめん、何て言ったかわかんなかったシャチ」
「や……も、いい……」


 完全に沈んだシャチを救済しようと、身体の上に乗った本をどかしていく。どれも表紙が分厚くしっかりしている本の為、本自体は折れたりというダメージはない。しかしこれを上空から落とされたシャチは、もう完全に伸びていた。
 何冊目かをどかした時に、見開きで落ちていた本の見出しがレキの目に入る。


  “一夜で住民全てが入れ替わった村”


 なぜか気になって、その本を膝の上に広げてみる。思ったより分厚くない本には、各ページにこういった見出しがあるようだ。本をじぃっと見ていると、ペンギンが声をかけてきた。


「その本はグランドラインで起こった事件や奇怪現象を書いた本だ。ただゴシップ色が強すぎて、本当かどうか怪しい」
「この、住民が入れ替わった……ていうのも本当なのかな?」
「そんな大それた事件があれば新聞にもなる筈だから、信憑性は低いかもな」
「ふーん……」


 不思議なこともあるものだ。
 しかしレキは何故かその内容が気になった。

 なぜかは、やっぱりわからなかった。


「気になるか?なら、やるぞ。部屋ででも読むといい」
「え?いいの??」
「俺はもういらないからな」
「いらない本!あるじゃん!そういうのを捨てろよ!」


 急に本の山の中からずぼっと頭だけを出してシャチが叫んだが、その訴えは受け入れられることなく、結局シャチの部屋にはさらなる本が押し込まれたのだった。

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