13

「キミがベポが拾ってきた子かー」
「可愛いじゃん、おれタイプー」
「やっぱ女の子は良いよなー」
「えっと……しばらくお世話になります」


 一向に本を運び出す作業は手伝わせてもらえないため、外で本の山を紐で縛っていたレキは今、自分が着ているつなぎと同じものを着た男たちに囲まれていた。一人、また一人と増え、只でさえ本が置かれて狭くなっていた廊下はごった返していた。


「お前ら、ダベってんなら手伝えよ!」
「ちゃんと俺らにも紹介しろよシャチ!」
「折角の女の子独り占めしやがって!シャチのくせに!」
「昼飯の時にするつもりなんだよ!誰だシャチのくせにって言ったの!」
「もー!邪魔するなら出てって!」


 レキは目の前で繰り広げられる様子を呆気にとられながら見ていた。海賊というのは斯くも賑やかなものなのだろうか。
 レキを中心に始まった筈の騒動は、いつのまにかシャチが弄られ倒すという現状に変わっている。クルー達は代わる代わるレキに声をかけては、部屋の掃除を手伝ったり、シャチを弄ったりと自由奔放だ。この船の中にいてイレギュラーな筈の自分に、豪快にでも接してくれるクルー達。最初は戸惑いがちだったレキも、次第に自然と笑顔を浮かべるようになっていた。そして何よりもこの雰囲気が、自然と彼女の胸を弾ませていた。


「ごめんねレキ、煩いのばっかりで」
「ううん、楽しいから気にしないで。賑やかなのってきっと好きなんだと思う」
「そう?良かった、さっきから思ってたけど、レキっていっぱい笑った方が可愛いよ!」


 他意無く笑う白熊に不意討ちを受け、レキは少しだけ頬を赤くした。



***



「ここでいい?」
「そんなに積んだら倒れちゃうよ。その隣に並べてくれる?」
「レキー、これどこだー?」
「ええっと、ここに纏めて入れて」


 次々と運び入れられる本の束を部屋の中に収納していく。結局全てを運び出すことはできなかった為、一度出した本を部屋に戻すことになった。レキが的確に空きスペースを埋めていく様を、クルー達は感心して見ていた。


「やっぱ女の子は良いよなー」
「ベポも良い拾いモンしたよな」


 そんな声はレキには届いておらず、ある程度本を収納し終えた彼女は満足げにふーと息をついた。


「残りはどうしよう?」
「元々は船底の倉庫に入れようかなと思ってたんだけど」


 ベポがレキと顔を見合わせて言うと、シャチは少し唸るように腕を組んだ。


「残りは殆どペンギンのだな。あいつは急に古い本出して来たりするしな」
「ペンギンの部屋に戻しちゃうとか?」
「あいつの部屋にそんなスペース1mmだってねぇよ。レキに掃除してやってほしいくらいだ」


 シャチの冗談に「うんうん」と、かなり真面目に賛同するかのように他のクルー達も頷いた。クルー達の話を聞いている限り、随分とペンギンの部屋には本が溢れているらしい。ペンギンはきっと厳しい人で、取捨選択をきっぱりこなす様な人なんだろうと思っていたレキは、少し意外な一面に素直に驚いた。


「……」
「ん?なに、シャチ」
「いや、大丈夫なら良い」
「??」


 よくわからないといった風に首を傾げたレキだったが、その会話は一人クルーの閃きによって遮られた。


「よし、シャチの部屋に置こう」
「は?!」


 いきなり自分の名前が飛び出したことに驚いたシャチ。しかもその内容が寝耳に水だったのか、彼は慌ててそのクルーに飛びついた。


「何言ってんだよ!本に囲まれて寝るとかぜってー無理!」
「イイじゃん、お前ペンギンの部屋とも近いし」
「エロ本隠すのに最適じゃんー」
「個人部屋もらってんだから贅沢いうなよ。はい多数決ー、シャチの部屋でイイと思う人ー」

「「「はーい」」」


 途中おかしな発言があったと思ったが、妙な団結力を見せたクルーたちは、驚きの手際の良さで本を別の場所に運び出していた。シャチの嘆きの声が船内に響く頃には、レキの部屋の前は綺麗に廊下が見渡せるようになっていたのだった。
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