あいつの考えを探して、やめた。
それは雲を掴むのと同じだ。
どんなに手を伸ばしても届かない。
仮に同じ高さに行けたとしても掴むことは不可能。


ヒソカが考えていることなんて分かりっこない。
嘘つき、気まぐれ。
いい加減だ。
果たされた約束などあっただろうか。


目が覚めたらあいつはいなくて、代わりにトランプがあった。
ハートのエースだった。
どんな意味を込めて置いて行ったのだろう。
確かなことは分からないが、きっと恋人同士のそれではないと思った。
あいつは気まぐれで嘘つきだから。


ここにあいつがいた痕跡はトランプと私の身体に残された朱だけ。
私が服を着て、トランプを始末してしまえばあいつの痕跡はなくなる。


「優しいんだか優しくないんだか…」


トランプを指先で弄びながら呟いた。
そして自嘲する。
ヒソカに優しさなんて、似合わない。
あいつの“優しさ”は他人に向かない。
仮に他人に向けたとしても、結果的にそれは自分の為なのだ。


ヒソカが自分の痕跡を残さないおかげで、私は彼を忘れていた。
正確には忘れたのではなく、記憶の片隅に追いやっただけだが。
それでも私にとっては無駄じゃない。
これは寂しさを感じない為の、自己防衛術。


彼は忘れた頃にやってきて、情熱的な夜をもたらす。
そして何事もなかったかのように去って行く。
私に残されるのは、身体のけだるさとキスマーク。
そしてトランプだ。


サイドボードから黒い箱を取り出す。
なぜこんなものを大事そうに取っているのか。
自分でも分からない。
また自嘲して蓋を開けた。


中にはトランプが入っている。
なにか意味があるのか。
それともなんの意味もないただの気まぐれか。
それはヒソカ本人しか分からないだろう。
私はベッド脇に置かれているトランプをわざわざ保管している。


最初は嬉しくて取っておいたが今はもう分からない。
そこに込められた意味が分かれば多少はなにか思うのかも知れないが…。
それは知るのは嘘つきで気まぐれな彼だけ。
私に知る術はない。


聞いたとしても答えてはくれないだろう。
少なくとも私には律儀に回答してくれる彼が想像出来なかった。
聞いたとしてもはぐらかされるか、意味深な笑みをもらうだけ。
私の質問に答えるあいつを私は見たことがない。


トランプの入った箱を元の場所に戻す。
そしてその足で新しい服を着た。
昨日の服はヒソカの手によって破かれてしまったのでもう着れない。
結構気に入っていただけにいささかショックだ。
あいつに破られた服はこれで何着目だろうか。


先ほど直した箱を取り出してトランプを数えれば分かることだが、そうする気は起らなかった。
それをしたからといって、私に出来るのは過去にただの布切れとなった服の総額を計算するくらいだ。
いっそのこと、今度あいつが来たら請求してやろうか。
どうせその日の服も破られるのだろうからそれも含めて。


そう思ったところで、次にヒソカがいつ来るのか。
それが分からなければ話にならない。
そして、私には分からない。
全てはあいつの気まぐれで私には選択権も拒否権もない。


そう、全てはあいつの気まぐれだ。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -