休憩の為に入った喫茶店。
オープンカフェなので、そこでお茶をすることにした。
日がぽかぽかと暖かい。
「あー、眠い!」
空を仰いでそう言うとメリアノが笑った。
この買い物の間で私と彼女は仲良くなった。
今回の魔女騒動について私はよく知らないので、彼女がどういう旅をしてきたのかを知らない。
そこで買い物がてら色々聞いてみた。
そんな会話から始まったもののそれも途中で終わる。
途中からは、あの商品が可愛い、この商品が可愛い、それはいまいち、と女の子同士の会話を楽しんだのだ。
そして私達は仲良くなった。
最初は彼女について行くだけの予定だったが、彼女が案内してほしいと言ったので私が気に入ってる店に連れて行った。
そこでも同じことを繰り返して、結果的に私も数商品買ってしまったのだが、まぁいいだろう。
「やっぱり仕事大変なの?」
「軍部でも言ったけど、無理だった分はワイアットの机に置いてるから」
「バレたら怒られるんじゃない?」
「怒られはしないと思うけど、なにか要求されるだろうね」
「それは嫌だなぁ」
「うん。私も。だからバレないようにしてる」
実際は気付いていると思う。
それでも私は“女だから”という理由で甘やかされているのだ、多分。
だってあのワイアットのことだもん。
分かっているに違いない。
「コールマンさんのところに置いたりはしないの?」
「まさか!コールマンの仕事を増やしたら一緒にご飯食べたり出来ないでしょ?」
「一緒に食べてるの?」
「ううん。誘ってるけど、時間合わないから」
特に最近は私が国境にいたせいでそのお誘いすらしていない。
今日あたり誘ってみようか。
でも無理かな。メリアノの担当だから仕事は山積みだろう。
別にメリアノのせいじゃないけど。
「ヨウコさんって本当に好きなんだね、コールマンさんのこと」
「そりゃあね、大好きだよ」
彼への好意はどれだけ経っても揺るがない。
片思いだけど、最初のころに比べればまだましだ。
最初は、物凄くまじめに拒否されていた。
今は、拒否というより呆れられており、適当にあしらわれているのに近い。
「結構マジなんだけどなー、コールマンのこと」
ふぅ、と溜息を吐く。
アタックしすぎて本気に取られていないのはなんとなく分かっている。
それでもそれを止められないのは、彼と関わりたいから。
そうでもしなければ、彼は構ってくれないだろう。
「いつから好きなの?」
「彼が一般兵の頃から」
「……よく見つけたね」
「自分でもそう思う」
一般兵は兜をかぶっている。
更にその数も多い。
兜は結構目深に被っているので基本的に顔は見えない。
私が最初に惚れたのは彼の容姿や性格ではなく弓の腕だった。
一人熱心に弓を引く姿はこれまで見たどの兵士よりも締まって見えたのだ。
「どうやって特定したの?」
「んー、ファウストに聞いたり、その辺歩いてた一般兵捕まえて聞いたり」
弓を引く彼と、“コールマン”を結び付けるのにそんなに時間は掛からなかった。
一般兵の間でもそこそこ有名だったからだ。
更に自主的に弓を引いていて、かつそれなりの腕前を持つのは彼だけだった。
「結構長い?」
「年単位ねー」
「すごい…」
「本当にすごいのはそれだけ長く私がアタックしてるにも関わらず、全くなびかないコールマンだけどね」
「確かに…」
自分で言ってて空しくなる。
少しは信用してくれてもいいのに…。
「アタックを控えめにしてみたら?」
「それ、やってみた」
「どうだった?」
「なんにも。普段と変わらなかったよ…」
「コールマンさん…」
「鈍感なのかねー…」
気持ちが伝わらないという状況は往々にしてある。
それは普通のことだ。
それでもコールマンのことに関しては伝えているのに伝わっていないからたちが悪い。
「もういっそ襲ってみようか」
「お、おそ…?」
「夜這い夜這い」
軽くそう言った私の言葉にメリアノは顔を真っ赤にさせた。
メリアノは綺麗な子だ。
これまでに彼氏の一人や二人いただろうし、まさか処女ということもあるまい。
「それはそれで信用されなそうな…」
「そうかなー?結構真剣に言えばいけそうな気もするんだけど」
「真剣にって…」
「“抱いて!”って言ったらきっと…」
「欲求不満なのかい?」
それは男の声だった。
こんなことを言ってくる人間なんて一人しかないないから顔も見ずに言ってやろう。
「さっさと見回りに戻って下さい。ワイアット副官」
「サボってる同僚を注意しにきたんだけどな」
「任務中です」
「メリアノ嬢の護衛?」
「そうです」
「俺に言ってくれたらよかったのに」
「女の子同士の方がいいことばっかりなので」
何か言おうとメリアノが口を開いたがそれより早く私が言葉を発する。
さっさとここを去った方がよさそうだ。
「行こう、メリアノ」
「あ、はい」
近くを通りかかった店員にお金を渡して、席を立つ。
「もう行っちゃうの?」
「えぇ、有益なことが一つもなさそうなので」
「つれないなー。夜這いなら俺のところにおいで」
「嫌です」
「じゃあ俺が行こうか」
「…。それじゃあ、任務頑張って下さい」
メリアノの手を引いて、中央区への道を辿る。
「今日、本当に夜這い掛けようかな」
「今日?」
「ワイアットに欲求不満だと思われてるから部屋に帰るのは危険かな、と」
「確かに部屋は危ないかもね…」
「うん。そうだな、やっぱり今夜コールマンの部屋に行こう」
「で、でもそれも危ないんじゃない?」
「コールマンに襲われるなら本望よ!」
あんまり大きな声で言えることではないから遠慮めにそう言った。
幸い、私達の周りに人はいない。
一人、そんなことを決意して、中央区を見上げた。