暗い路地に男と女。
状況はとても簡単。
男と女の距離は近い。
恋人のそれと言ってもいい。


「熱々ね」
「ロープには縁遠い状況よ」


「うるさい」


その路地を通ろうとする男が一人。
ホタルの様に光る何かを従えている。


「回り道しましょうよ」
「どう考えてもお邪魔だわ」


「なんでそんなことする必要がある。ここを通った方が早い」


「こんなんだから女の子にモテないのよ」
「気が利かないわね」


「燃やすぞ。嫌ならお前達だけ迂回しろ」


結局男はその路地に足を踏み入れる。
一歩一歩、その二人に近付いて行く。


男女は口付けを交わす。
最初は軽いもの。
段々とそれを深くしていく。
中ば女を壁に押し付けて男は繰り返す。


「見ていられなーい」
「熱々〜」


従者の言葉を男は無視した。
いちいち相手をするのも煩わしい。
それ以上に、早くこの場を去ってしまいたかった。
男が二人を通り過ぎる。


ふと、視線を感じてそちらを見る。
女が男を見ていた。
口付けを交わす相手ではない。
通りかかった男を、だ。
しかし、それは一瞬のことで、女はその目を瞑る。


女は少し男を押し返した。
そして、状況を逆転させる。
女が男を壁に押し付けたのだ。
首に手を回してまたもや深く口付ける。


「あんなことしてる最中によそ見なんてやるわねー」
「ロープ、誘われてたのかもよ?」


「アホか」


熱い男女を通り過ぎた男は、従者に冷めた目を向けて前を見た。
ずらりと人が並んでいる。路地を塞ぐように。
今日はクリスマス。
遅い時間とは言え、まだ賑わっている。
それには似つかわしくない光景だった。


「な、なになに?」
「一体なんなのー!?」


「うるさい。黙ってろ」


男は、危険な仕事を何度もやってきた。
それは法に触れるギリギリのもので裁かれるようなものはしていない。
だが、それ以外にこの状況を生み出す要素はないはずだ。
下手を打ったか?
男がそう考えたのは、路地を塞いでいるのが誓騎士だったからだ。


「隠者殿?」


その中の一人がそう言った。
“隠者”とは、男の通り名だ。
その声には聞き覚えがあった。
おおよそ一年前、魔女の一件で自分を訪ねてきた男。


その時、男の後方で激しい物音がした。
さきほど女と口付けを交わしていた男がこちらに走ってくる。
その向こうに女、そのまた更に向こうに兵士が並んでいた。
どうやら、彼らの目的は自分ではなく、さきほどの男のようだ。


「隠者殿」


そう言って、誓騎士が男を背後に庇う。
騎士達の後ろにいたのだろう。
兵士がずらりと路地の前に立った。
男はその隙間から様子を窺う。


「おらぁ!」


兵士の壁が一瞬にして割れた。
割れて現れた地面に伏せているのは先ほどの男。
その背に乗っているのは、先ほどの女。
どうやら後ろから飛び乗ったらしい。


「往生際が悪い!」


誰の耳にも届くような大声。
道行く人がこそこそと目を向けたが、騎士の姿を目に止めて慌ててそれを逸らす。
関わっていいことではないと理解したらしい。


「なにやってんの!早く拘束しろ!」


呆気に取られているらしい兵士達を女はそう一喝する。
慌てて気を取り直した兵士が男を脇から抱えて起こす。
男は何事か喚いていたが、だんだんとそれが遠退いた。







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