自己紹介を終えて、私はあることに気がついた。


「そういえば、さっきのなに?」


「さっきの?」


「私がここに来ること知ってたの?」


「あぁ…」


蒼は私が入ってきた時「遅かったね」と言った。
それは私がここへ来ることを知っていないと出てこない言葉だ。


彼に連絡はしていない。
まだ日中に登校もしていない。
私の三年初登校日は明日だ。
今日は部活動のことでの登校である。


「さっきまでここに五十嵐さんがいたんですよ」


優也君が言う。


「と言っても、私達が来たときはもう送り返される直前でしたけど」


だから話をしたのは蒼だけだとイチちゃんが続けた。
……さっきまで、ということは。


「呼び出したの?蒼」


「うん」


私より早くこの部屋に来れる方法は一つしかない。
瞬間移動だ。それが出来るのはその能力を持つ蒼。
私が退部届を出してすぐ彼を呼び出したようだ。
そして五十嵐から私がここへ向かっていることを聞いたと。


「よく分かったわね、私が退部届出したこと」


「ふふ、うちには優秀な予知能力者がいるからね」


「予知?」


「それって、私のことですか…?」


イチちゃんが呟いた。
彼女の能力は予知・直感、だそうだ。


「キミ以外にそんな能力を持った人はここにはいないよ」


「い、伊織くんがコピーしてるかも知れないですよ!」


「あんたの力が弱過ぎてコピー出来ないってば」


伊織君が言うとイチちゃんは小さくなった。
そしてブツブツと呟いている。


「まぁ、確かに力は弱いかも知れないけど、彼女の力は本物だよ」


「ホントですか!?」


「だから洋子が来ることを予知出来たんじゃない」


「え?」
「え?」


聞き返した一つは私。
だが、もう一つは予知したはずのイチちゃんだった。
なぜ彼女が…?


「あれって木村先輩のことだったんですか!?」


「うん、そうだよ」


話が全く見えない。
二人の間で解決されても困る。
どういうことだ。


「イチはまだ自分の力が信じれないんだよ」


「まぁ、まだ覚醒したばかりですから無理もないですけどね」


蒼の言葉を姫ちゃんがフォローした。
更に小さくなったイチちゃんがこれまた小さく息を吐く。


「試験には受かったんでしょ?」


能力者は試験を受けることになっている。
その際、名前を始め、どういう能力を持っていてどこに住んでいるかなどを機関に記録されるのだ。
これは能力者による犯罪を防ぐ為である。
この試験に受からないと能力は剥奪され、普通の人と変わらなくなるのだ。


「それはもちろんっ!でないとここにいませんから!」


優也君が胸を張る。


「あんな試験受からない方がおかしいけどね」


伊織君がその胸に言葉のナイフを突き刺した。
途端に優也君まで小さくなってしまう。
そして、イチちゃんと並んでいじけ始めた。


「まぁ、イチの予知だけでもないけどね」


話を切り替えるように蒼が言う。
彼は私をじっと見て首を傾げた。


「もしかして、覚えてないの?」


「なにを?」


「これ」


蒼が首を右に捻る。
左耳の上、髪にピンクのピンがクロスされて留められていた。


「自分の能力でしょ?」


「………っ!」


そうだった。
すっかり忘れていた。
というより、まさか本当に付けているとは思わなかった。


私の能力はテレパシー。
目に見える人、それから本名を知っている人に自分の言葉を飛ばすことが出来、目に見える人に限り考えていることを読むことが出来る。
更になにかしらの、今回の場合はピンクのピンだが、媒体を相手に与えることで会話をすることも可能だ。


つまり、蒼と私は電話を介さずに会話が出来るのだ。
だが、今回の場合はもう少し複雑な技術を使ってあるものをあのピンに仕掛けていた。
それは位置探索。
私自身が発信機で、あのピンが受信機の役目を果たす。
私が蒼に近付くとそれを付けている蒼には分かるようになっていたのだ。


なぜ、ピンクのピンかというと、たまたま持っていたのがあれだったからなのだが。
まさか、それを付けてくれるとは思わなかった。
蒼は一応男だ。
まぁ、似合っているのだが。
それでもピンクのピンを付けてくれるとは夢にも思わなかったのだ。


「これが“洋子が近くにいる”って教えてくれたんだよね」


「春休みから突然ピンクのピンを付け始めたのはそれでですか」


姫ちゃんの呆れた声が耳に届いて苦笑した。
あのピンを渡したきっかけは春休み前に私が屋上で眠りこけていたことだ。
部活前に少しだけと屋上へ上がったらば気持ちの良い風が吹いていた。
そこで寝転がってみたら思いのほか気持ちよかったのでそのまま寝てしまったのだが。


部活が始まる時間になっても一向にこないので部員全員で探し回ってくれたらしい。
蒼は能力で私を呼び出そうとしたのだが、五十嵐の猛反対にあい断念。
ようやく屋上で私が見つかったとき、すでに下校時刻になっており、源先生にやいやい怒られながら下校した。
そのことで二度とないように、と蒼に提案されたのがこの受信機である。


彼氏に居場所を知られることになんの抵抗も感じなかったので私はその提案を受け入れた。
彼にとって私の居場所を知ることは大した問題ではない。
来ようと思えば、どこへだって行ける能力を持っているのだ。
近付かれて居場所が分かるのに困ることはない。
ついでに通信機の役目も持つのなら、尚更拒む理由などなかった。


「もしかして、結構バカップルなんですか?」


優也君が悪意のない様子で質問する。
蒼の笑顔がこの上ないほど黒く見えたのは気のせいではないだろう。





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