男に絡まれてる女の子二人を見つけたとき、正義感というのか、なんなのか。
とりあえず、見て見ぬフリなんて出来なくて近付いた。
女の子二人はお揃いの着物のようなものを着ていて、ちょっと変わった格好だなぁとは思ったけど、それと彼女達を助けないことは繋がらなくて、声をかけた。
知り合いのフリをして近付いて、「じゃあ、行こっか」と二人の背中を押したが、男は諦めが悪いらしく私の肩を掴んで引き留めようとする。
気付いたときにはすでに行動を起こしていた。
左足を軸に回し蹴り。
近付いたときに男の高さは分かっていたから、的確に側頭部を狙えた。
もちろん、悪いことをしたとは思っていない。
絡んでいたのはあの男だし、私は姉妹と思しき女の子二人を助けただけだ。
なのに、男は叫んだ。
「訴えてやる!!」
なにをいっているんだ、このおとこは。
思わず思考が停止する。
「訴える…?」
男の言葉をそのまま返せば、またも男はがなり出した。
「そうだ!お前、訴えてやるからな」
さて、どうしたものか。
「これは一体どういう状況なんだ?」
女の子達の隣に立つギザギザ頭の男。
紺色のスーツに身を包んでいる彼は……、
「成歩堂…?」
「ム…何事だ」
赤いスーツに胸元のひらひら、彼は…、
「御剣?」
「あたし達が絡まれたところを、あのお姉さんが助けてくれたんだよ!」
あのお姉さんの部分で指を差された私は、見覚えのある二人を交互に見ていた。
「「洋子?」」
「知り合いなの?」
ちょんまげのような髪型をした女の子が小首を傾げる。
「無視してんじゃねぇぞ、テメェ」
明らかに私へ向けられた言葉。
「訴えてやるからな、覚悟しとけよっ!」
「俺、見てたから!!きっちり証言してやるぜ!」
更に、電柱の影から飛び出してきたトサカ頭は…
「矢張っ!」
「よう、洋子。元気だったか?」
矢張は片手を上げてひらひらと振る。
なんとなく、私も「うん」と返して同じように片手をひらひらと振った。
「矢張!お前なにやってたんだよ!真宵ちゃんはいいけど、春美ちゃんはまだ小さいんだぞ!」
「ちょっと、なるほどくん!あたしはいいってどういうこと!」
“真宵ちゃん”を無視して会話が進む。
「いや、カズミがさ、知らねぇ男と歩いてたんだよ。彼氏の俺としては、追い掛けるのが普通、だろ」
「だからって、二人をほっていくなよ!なんの為にお前に頼んだと思ってるんだ!」
「ま、まぁ、二人とも無事だったんだから、いいだろ成歩堂」
「洋子のお陰だろ!それに、見てたなら手伝えよ!」
「成歩堂」
「ん?」
御剣が成歩堂の肩を叩き、現実に引き戻した。
その視線の先には絡んでいた男。
「慰謝料だ…慰謝料払いやがれ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る。
「だ、そうだが…。どうする?」
「私、訴えられるの?」
「この男が申し立てれば、な」
「成歩堂、弁護よろしく」
「まぁ、それは構わないけど。矢張、ちゃんと証言しろよ」
「任せろ!」
「…テメェら一体なんの話してやがんだ?」
男は私達を見回して眉をしかめる。
「なんのって、訴えるんでしょ?」
“真宵ちゃん”が男に言う。
「テメェら一体なにものなんだ?」
男の言葉に私達は顔を見合わせた。
「弁護士の成歩堂龍一です」
「検事の御剣怜侍、だ」
「俺、証人の矢張政志!」
「同じく証人の綾里真宵と」
「綾里春美です」
「えーと、被告人の木村洋子です」
つられて私まで自己紹介をしてしまったが、男は「弁護士…検事…」とぶつぶつ呟いていた。
「どうしますか?訴えますか、彼女を」
「…い、いや…」
「裁判になったところで、キミに勝ち目はないだろうな」
「…うっ」
御剣の言葉がトドメだったようで、男は「覚えてやがれ」なんて捨て台詞を吐いて去って行った。
「ありがとうございました、洋子さん!」
真宵ちゃんが私に頭を下げると春美ちゃんもそれに倣う。
「いや、私は当然のことをしたまでで…」
真宵ちゃんはニコニコと笑いながら、私の手を取ると、
「お礼にラーメン奢ります!なるほどくんがっ」
「…えっ」
「お、いいね、それ。ちょうど俺も腹減ったし」
「う厶。悪くない」
「ちょっと待て。なんでお前らまでぼくが奢らなきゃならないんだ?」
「ほら、俺、証人だし」
「私は検事だ」
「いやいやいや。そういうことじゃなくてだな…」
「もう、なるほどくん!ケチはいけません!」
「はみちゃん、もっと言ってやって。ほらほら、洋子さん、やたぶき屋へ、レッツゴー!」
私は引きずられるようにその場を後にした。