色々な事が、頭を巡っていた。
美柳ちなみの事。
公園での事。
御剣と話した事。
成歩堂が司法試験に受かった事。
その後の、あのキス。
裁判所で見た成歩堂と真宵ちゃん。
そして、ある疑問が浮かぶ。
「い、いつから!?」
全ての事を繋いでみても分からない。
そんな素振りは一度もなかった。
「キミの事が好きだと気付かせてくれたのは、キミ自身だよ」
膝の上で手を組んで、成歩堂は話し始める。
「ぼくが司法試験に受かって、弁護士になって…。それから逢っただろ?」
「……うん」
あの、キスをした日の事か。
「帰りがけ、キミにキスをされたとき。嫌じゃなかった」
そこで一旦言葉を切ると、私に目を向けて微笑む。
「というか、それからキミが気になってしょうがなかったんだよな」
きっかけはキミ。
そう言って成歩堂は照れ笑いを浮かべた。
「だから尚更ショックだったんだよな。御剣と並んでるのを見たとき」
「…御剣には色々相談に乗ってもらってて…」
「それも聞いたよ、御剣から」
「…じゃあ、御剣ってば、バラしたの?私が成歩堂を好きなこと」
「そうとも言えるかも知れないな。まあ、キスされた時点で気付いてはいたけど」
御剣め…。
「じゃあ、両思いだということも確認出来たし、いただきます」
「だー!待った!!」
私に覆いかぶさろうとした成歩堂の胸の辺りを押し返す。
「い、一応、順序ってもんがあるじゃない?」
「お互いの気持ちは確認したよね。…他に踏む手順はないと思うんだけど」
「いやいや!ほら、デートに誘って、デートして、綺麗な夜景を見て…」
「なるほど。それがキミの理想な訳だ」
よし、と成歩堂は立ち上がり私に手を差し延べた。
「今からデートしよう」
「い、今から?」
「そう、今から。…なにか予定でもあった?」
「い、いや。なにも、ないけど」
「じゃあ決まり。早く行こう」
彼の手を取ると同時に引っ張り上げられ、そのまま手を繋ぐ形になる。
玄関を出て、鍵を掛ける。
その間も成歩堂は私の手を離す気はないようで、私は片手での施錠を強いられた。
「最後は夜景を見に行くとして…。さあ、どこ行く?」
「とりあえず、検事局」
「“検事局”?」
「御剣に報告も兼ねて説教してやる」
「あー、気持ちは分からないでもないけど、流石にあいつも休みだと思うよ」
「じゃあ、自宅!」
「押しかける気か」
実際は、ただ誰かに自慢したいだけなんだけど、一番に報告するなら御剣がいい。
「まあ、いいや。行ってみようか、御剣の家に」
「その次は矢張の家に行こう!」
二人で顔を見合わせて笑う。
望んでいた未来。
それを手に出来た私は今までにないくらい幸せに笑っているだろう。
隣にいるのが彼で良かった。
少し歩く速度を緩めれば、彼が、どうしたの、と振り向く。
私は、なんでもない、そう返してまた歩き出す。
「いやぁ、夜景を見た後が楽しみだなあ、ぼくとしては」
「…え…?」
「楽しみにしてるからね、洋子」
「なにを?」
「もちろん、ナニだけど」
「…………やっぱり帰ろうかな」
「いいよ、夜景見た後で。その方が盛り上がりそうだし、ぼくの為にそんな急いでくれなくったって」
「そういう意味じゃない!」
私の話を聞いているのかいないのか、「楽しみ楽しみ」と鼻歌を歌いながら彼は先を歩く。
そんな彼を“まあ、いいか”で済ませてしまえるあたり、私も満更ではないのだろう。
自分で言うのもなんだけど。
報告に来た私達を見て、御剣はなんて言うかな。
でも、大方分かってるんだ、彼の言う台詞なんてさ。
きっと、彼はこういうだろう。
回り道をした私に向かって、
大馬鹿者め。
そしてその後、
おめでとう。