瞬き煌めく

「おかえり」
「ただいま」

一般の夫婦のような挨拶だけど、私達は少し違う。ベックは航海の途中に一度家に寄ってくれたのだ。後ろにでかでかとした赤い龍の船を携えながら歩いてくるベックのコートを受け取り、一言二言しゃべりながら目を合わせればキスされた。人前でしないでって怒るのも久しぶりだ。

「Foo!副船長の現地妻っすか!」
「副船長も隅には置けないっすね」
「でもよ、初めて見たよな」

色々言われているのを耳に入れつつ笑えば急に体が浮く。気づけばベックの顔がすぐそこにあった。

「当たり前だ。おれの女は一人しかいないからな」
「あら、現地妻つくってないのね」
「おれには必要ないのわかってるだろう」

そのまま一人で過ごすには少し大きい家まで歩いていく。なにもかも久しぶりで、懐かしく心が何かで満たされる感じがした。



このワンピースを着るのも初めてだ。ベックとのお出かけ用にと買ったままクローゼットでお留守番だった。やっと出してあげられる。

「そんな綺麗な服着て、どこに行くんだ?」
「旦那様とデートなの」
「アンタの旦那はさぞかし幸せだろうなァ」
「あなたもできた男で奥さんは幸せね」

誰のためかわかっているのに笑って問いかけてくる彼に、旦那を強調して返してあげる。まるで他人事のようにしゃべるのが楽しくて、近づいてくるベックの首に腕をまわし鼻をくっつけた。

「なかなか帰って来れなくて悪いな」
「なぁに、急に。それを承知で結婚したのよ」
「……おれが言えた義理じゃないんだが、もっと甘えてくれ。赤髪の宝物庫をひっくり返すぐらい」
「そんなことしたらシャンクスもひっくり返るわね」

くすくすと笑いながらわがままを考えてみる。"宝石をちょうだい?"それはベックからの宝石じゃないから意味ない。"キスして?"あまりわがままな感じがしない。

「新しいブレスレットがほしい……これならどう?」
「お安い御用だ」
「黒の宝石がいいわ、ベックの瞳みたいな輝く黒」

目の縁を愛でるように指のはらで撫でれば、何度も何度も煌めいた。

「今はおれの瞳で我慢してくれるか?」

黒の輝く宝石が近づき、見えなくなる。消えては見える宝石をじっくりと堪能するのは明日にしてあげようと今は唇に食いついた。

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