アイスバーグ
アイスバーグさんが座っている椅子にすらりとした足をつき、ネクタイを強引に引っ張るモデルのような美人に、それを少し照れたように見る彼。あー、来るんじゃなかったと声に出したかった。
カリファがいなくなり新しい秘書がいる、○○がならないかと誘われたのが始まりだ。私はただの事務員で彼の恋人ってだけで秘書になるほど頭は良くない。丁重にお断りしたところ秘書の面接が始まったわけだけど、これはモデルのオーディションなのかというほど美人ばっかりだ。その時点で嫌な予感はしたがそれが命中。あからさまに胸を押し当てる人、髪をかきあげる人、彼の耳元で何か囁く人、その度にハレンチ女!と叫び声をあげるパウリーのおかげで捌けているが、私は見ていられなくてそっと部屋を出た。もう少し寛容な心を持てればいいんだけどな、と深呼吸を三回。手鏡に笑顔を向けて確認して「嫉妬はしない、私情は挟まない、嫌な顔はしない」と唱えて……
「ンマー、おれが全面的に悪いが嫉妬はしてほしいな」
「っ、いつからそこに」
壁にもたれかかり腕を組む彼が後ろに立っていて飛び上がりそうになる。今の呪文聞かれてた?
「悪かった○○、面接は切り上げる」
鏡を持った手を掬いとりキスを落とし、私を見つめる目は許しを乞うような色をしていて、さっきまでのルールが揺らぐ。頬を親指で撫でられてもうダメだとぽつぽつと言葉が出た。
「綺麗な人に照れてるの嫌。突き飛ばせなんて言わないけどもう少し抵抗して」
「ああ、わかった」
そんな嬉しそうな緩んだ顔しないで!って言いたいのに気分があがったのか私の頬を包むようにキスしてきたせいで何も言えず仕方なく彼に体重を預けた。
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