今宵は最高のマリアージュ

次々と行われていく撮影。CDジャケットの写真に、写真集用の写真に、特典の写真に。何枚撮っても終わらない気がしてくる。カメラマンさんが見せてくるパソコンの画面を見ながら蘭丸本当にかっこいいなとぼんやり思っていた。

「なに呆けた顔してるの。特典の写真、君が選んでくれるんじゃなかった?」
「あ、ごめん。藍はこれか、このパターンの写真が似合ってると思うよ。一番好きなのはこれ」

青い宝石をもって穏やかな顔をする藍の写真を指させば「ふーん」と何度かチェックしたあと「じゃあそれにする」と即決してくれる。それを見てバレないようにため息を吐いた。

「蘭丸ばっかり見てるでしょ。僕にはバレてるよ」
「げ、分析しないでよ」
「君が集中しないからだよ。気づいてないかもだけど、次蘭丸のピンだからね」

その声に慌てて顔を撮影ゾーンに向けると蘭丸が花束を持って撮り始めるところだった。珍しい白のタキシードに優しめのメイク。男前は何着ても似合うものだ。そうしてる間に十枚ほど撮り終わり、次は小道具なしでとなる前に藍が割り込んできた。

「ごめん、少しいいかな」
「なんだ?」
「..…」

不思議そうにする蘭丸の耳に口を寄せボソボソと小声で何かを言っている。この距離では聞こえず、終わるのを待っていると蘭丸は「あー……わかった」と何か了承したみたいだった。

「あと数枚、花束で撮っていいですか」
「いいよー!」

先程の道具のような扱い方と違い、花を大事そうに抱え、顔を寄せる。まるで大切な何かを抱いてるような表情だった。そんな表情をする彼が珍しくて目を見開きながら見ていれば、周りも同じだったらしくカメラマンもびっくりしている。

「何か大切なものでも思い浮かべた?」
「まぁ、今一番大切にしたいものを」

カメラマンとのやり取りを不思議に思いながらもカルナイの何枚かの写真と一緒にその写真もスマホに転送してもらった。



「これ、○○を思い浮かべたらどう?って言ったの」
「え?」

脈略のない言葉に何の話かわからず、メールを読んでいた手を止める。相変わらずこれといった変化のしない顔をじっと見つめれば、手元にあったマリアージュのブロマイドを指さされた。花束を大切そうに抱えた蘭丸の写真だ。

「本当に?」
「嘘ついて何になるの」

その言葉を聞き荷物を纏める。もうそろそろ帰るかと思っていたが、今すぐに帰ろう。「藍、おつかれ」と言えば「蘭丸はあと三分十七秒で家につくよ」と言われありがとうの意味を込めて手を振った。



「私を思い浮かべたって本当?」
「....…何の話だ」
「マリアージュのブロマイド」

帰って早々に目の前に出し言えば口の端をあげて笑う。それを見て確信した。

「藍が顔が固いからお前を思い浮かべてみろってな。おれの愛伝わったか?」

その言い方に言葉が詰まる。もっと照れたりするかと思ったのに、ブロマイド片手に笑っている。その蘭丸に雪崩るように抱きついた。

「つたわった……優しい顔しすぎでしょ」

思ったよりへにょっとした頼りない声が出てしまったが、仕方もないだろう。私を抱きしめるときそんな顔をしてるのかと思うといつもより照れそうなのだから。

「お前が思ってる何十倍もおれはお前のこと愛してる。だからこれずっと持っててくれ。いつか白いドレスを着て隣に立てるようにしてやるから」

膝立ちのせいで座る蘭丸を見下ろしているのに愛が上から降ってきているように感じるほど甘い。その言葉に酔うように崩れ落ちながら「この写真選ぶんじゃなかったなぁ」と蘭丸の首に強く抱きついた。

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